混迷の世界を解き明かす「覇権」という視座

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昨年は米中覇権争い注目が集まったが、新型肺炎の蔓延で争いは“一時休戦”の様相を示している (写真)photoAC

 昨年12月から今に至る世界情勢を振り返ると、緊迫のイラン情勢や英EU離脱があり、第三次世界大戦勃発の懸念すらありました。相対的に見ればアメリカはかつての地位を低下させていますが、それでも覇権国家としての役割を担っています。また、イギリスにもかつての覇権国家としての存在感はいたるところで見られ、今回のEU離脱にも少なからず影響を及ぼしました。ここでは『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ刊)より、歴史家である著者の島崎晋氏が、世界情勢を読み解くうえで、覇権国家の栄枯盛衰に学ぶ必要性を語ります。

「覇権国家」2000年の栄枯盛衰

 人間がマンモスやナウマンゾウといった大型哺乳類を狩るには、リーダーの存在が欠かせなかったはずです。一人では無理で、人数が多くても統率が取れていないと成功は覚束かなかったでしょう。仲間の連携と役割分担が不可欠で、それには頼れるリーダーがいないことには話になりません。

 こうなるとリーダーが獲物の分配も仕切り、日常生活でも指導的役割を担うようになるのは自然な流れでしょう。集団内で揉め事が起きたときに調停し、他の集団と抗争が生じたときに戦いの指揮を執るのも、和平交渉にあたるのも同じ人物の役割だったといえます。 

 集落が村落となり、村落が町、町が都市国家、都市国家が領域国家へと発展を遂げるなかで、やがて広大な版図を有する大国が生まれ、その大国が言語や文化の異なる他国をいくつも併呑や保護国としていけば、覇権国家と呼びうる存在が誕生するわけです。

 全世界規模の覇権国家は、16世紀末のオランダに始まり、イギリス、アメリカへと受け継がれました。ローカル規模の覇権国家は、東アジアでは戦国時代を終焉させた秦(しん)に始まる中国の統一王朝がそれで、匈奴(きょうど)や突厥(とっけつ)、モンゴルのように北方民族が統一された状態もそれにあてはまります。

 西アジアではアッシリアに始まり、アケメネス朝がそうならササン朝もそうだといえるでしょう。イスラーム時代に入ってからは、アラブ帝国、ウマイヤ朝、アッバース朝、チムール帝国、オスマン帝国、サファヴィー朝などが該当します。

 ヨーロッパではマケドニアとローマ、ビザンツ帝国、フランク王国、カヌートの帝国からしばらく飛んで、同じくハプスブルク朝下のスペインとオーストリアが該当します。

 こうした覇権国家は、歴史に名を刻みこそすれ、永遠に続くことはありませんでした。栄枯盛衰からは逃れられないわけですが、歴史に学ぶことで延命を図る程度であれば可能かもしれません。

いまこそ覇権国家の衰退に学ぶとき

 歴史的に見ても覇権国家が必ず衰退する要因として、一番に挙げるべきは慢心です。これは驕り、過信、自身への過大評価と言い換えてもよいでしょう。自分たちは神に選ばれた優秀な存在で、他から学ぶべきものは何もないという声が多数を占めるようになったらもう黄色信号です。

 覇権を築くまでには、例外なく無理に無理を重ねてきているため、時と場合に則したイノベーションを重ねて続けないことには、現状維持さえままならなくなるでしょう。時代を経てもイノベーションが打ち出せない、停滞したままで良いと感じ始めたときには、もう衰退は避けられないといえます。

 21世紀を生きるわたしたち、歴代の覇権国家のあり方を数々の文献や遺跡を通じてかなり詳しく知ることができます。科学の進歩は大量破壊兵器を製造する一方で、歴史に学ぶ材料を数多く取り揃えてくれてもいます。過去の成功にも失敗にも学ぶ点はたくさんあります。問題はその見極めと、現代社会にどう活用するかでしょう。

 公正な普通選挙が実施されている国であれば、有権者は目先の利権や人間関係ではなく、相応しい人物に投票することが求められています。それだけに、先進国の多くでいまポピュリズム(大衆迎合主義)の席巻が見られるのは非常に憂えるべき事態です。本来であれば、世界をリードすべき立場にあるアメリカからしてそれでは、どうしても悲観的にならざるをえません。

 この危機の時代、覇権国家とはどうあるべきなのか。歴代の覇権国家のように衰退する運命を歩むのではなく、戦争・テロの防止や飢餓からの解放など、覇権国家には人類全体、環境問題を含む地球全体を見据えた政策を取ってもらわねばならないといえるのではないでしょうか。

――島崎氏は中国やイギリスで滞在経験がある、古今東西の歴史・宗教・地理に精通した稀有な歴史家。混迷の世界情勢を読み解くうえで、「覇権」という視座を強調し、最新刊の中でもそれに言及しています。2020年の世界情勢を新たな視座で読み解くうえで、参考にしてみてはいかがでしょうか。

島崎晋

ウェッジ
2020年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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