静かだが力強い言葉で「トラウマ」の正体を伝える良書

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ぼくらの中の「トラウマ」

『ぼくらの中の「トラウマ」』

著者
青木 省三 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/心理(学)
ISBN
9784480683687
発売日
2020/01/06
価格
924円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

トラウマに寄り添う静かだが力強い言葉

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 やたらに「トラウマになった」と言う人が苦手なのだが、しかしどんな人にもトラウマはあるのでは、とも思う。そもそも、トラウマってなんなのか。

 青木省三『ぼくらの中の「トラウマ」』は、繊細な言葉で少しずつトラウマの正体を伝える良書だ。心の傷はいかに大怪我であっても目に見えないから、その傷に周囲が気づかなかったり、反対に気を回しすぎて大袈裟な対応をしてしまったりする。本人にとってはトラウマは「恥」なので、告白は難しい。

 過去にいやな思いをして、それを思い出すたび悲しみや苦しみがよみがえる。それがトラウマだ。あなたの家族や友人に、ふだんは快活に見えるが、ある話題をかたくなに避けたり、特定の人や場所にけっして近づかない人がいたなら、なんらかのトラウマをかかえている可能性がある。でも、「話せばラクになるから」と言って告白を迫ってはいけない。著者は、傷ついた本人が「今なら(この人になら)話せる」と判断するまでは心にしまっておくほうがよいと言う。

 トラウマは消えず、色あせるのみだ。それをこの本ではっきり知った。「こうしてトラウマを克服」などというストレートな対処方法はない。でも、それぞれの環境でそれぞれの対処をしてラクになっていった人たちの例がたくさん挙げられている。格好のいい解決なんか必要ない、とにかく生き延びればいいのだ。静かだが力強い言葉で、著者はそう伝えている。

新潮社 週刊新潮
2020年2月27日梅見月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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