【産経の本】『台湾に水の奇跡を呼んだ男 鳥居信平』平野久美子著

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 ■日台つなぐ日本人技師の偉業

 台湾でいまも感謝、尊敬されている日本人水利技術者、鳥居信平(とりい・のぶへい)の半生を描いたノンフィクションである。

 約100年前の大正時代、台湾の荒れ地を緑の農地に変えるため艱難(かんなん)辛苦の工事をやり通した鳥居。彼の造った地下ダムは屏東(へいとう)平野に広がる農地や植林場を潤している。そうした偉業に元台湾総統の李登輝氏も「実に頭の下がる思いがします」と賛辞を贈った。

 さらに現在では、国立屏東科技大学の丁●士(てい・てつし)教授が日本統治時代の水利技術や環境型ダムを紹介、鳥居の工夫した灌漑(かんがい)施設の発想を進化させ、台湾南部の水不足や地盤沈下解消のプロジェクトを手がけている。こうした100年の時を超える活動は、多くの住民に水の恩恵を与えるだけでなく、日本と台湾をつなぐ絆となっている。

 本書で描かれる鳥居の無私無欲、住民の生活や衛生、環境への深い心配りは、アフガニスタンで昨年凶弾に倒れた「ペシャワール会」の中村哲医師の姿にどこか重なるものがある。難事業にあえて挑戦した先人たちの後に続く若者が一人でも多く生まれてほしい、と著者が願うのもうなずける。単行本『水の奇跡を呼んだ男』を改題、文庫化にあたり大幅改訂。(産経NF文庫・810円+税)

 ●=轍の車をさんずいに

産経新聞
2020年2月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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