『幻のオリンピアン』
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シンクロニシティ
[レビュアー] 酒本歩(作家)
三月の下旬、私のデビュー二作目、『幻のオリンピアン』が発売されます。この小説が「いける」と思ったのは、ちょうど一年前、「ばらのまち福山(ふくやま)ミステリー文学新人賞」授賞式の翌日のことです。私は選者の島田荘司(しまだそうじ)先生と福山市の書店さんをご挨拶に回っていました。タクシーの車中、運転手さんに「この近くにもオリンピックの施設ができたんですよ」と話しかけられたのです。
「えっ? オリンピックは東京でしょ」と驚く私に運転手さんは「福山市はメキシコ選手団のオリンピック開催前の合宿地なんです」と。
私はそのときまさに、東京オリンピックをめぐるミステリーのプロットを編集さんに提案したところでした。デビューさせていただいた島田先生と、賞の主催地である福山市の書店さんに伺う最中に、福山市がオリンピックを応援しているという話題が出る。
これはもう小説の神様が「このテーマで書け」と言っていると思いました。こういう不思議な巡り合わせを、何度か経験しました。
小説の主人公は体操選手ですから、どうしても体操部の取材をする必要があります。探し回った末にある高校に許可していただいたのですが、私が大学生のときに毎週その高校の前をランニングしていたことに気づいたときは仰天しました。
完成稿を編集さんに送った後、出身地の長野(ながの)県坂城町(さかきまち)でトークショーがあったのですが、終了後にお聞きしたら、町長さんは高校時代、体操の選手でした。しかもトークのお相手をしてくれた図書館長さんの出身校は、小説のモデルにした高校です。
まだ二作目が出たばかりの駆け出し作家ですが、シンクロニシティというのでしょうか、この意味のある偶然の一致に導かれて進んでいる。そう感じています。