七面鳥
[レビュアー] 瀧羽麻子(作家)
生まれてはじめて七面鳥を見た。
いや、正しくは、はじめてではない。こんがりと焼きあげられ、おなかを上にして大きな皿に盛られているところは、何度も見たことがある。子どもの頃、まるごと一羽のローストターキーは、クリスマスのごちそうの主役だった。
生きている七面鳥を、わたしははじめて見たのだった。
生きている七面鳥は、大変迫力があった。想像以上にどっしりと立派な体つきで、特にオスは、青みがかった黒い羽がつややかで美しい。鋭い眼光にも、とがった嘴(くちばし)にも、独特の風格がある。貫禄たっぷりのたたずまいながら、ひょこひょことお尻を振って歩く様にはどこか愛嬌もあって、眺めていると、なんだかたのしい気持ちになってくる。
しかも、彼らは働き者だ。
「うちの従業員です」
と、農家の方は紹介して下さった。農業にまつわる連作短編を執筆することになり、取材におじゃましたのだ。ビニールハウスの中に放し飼いされた七面鳥たちは、毎日伸びる雑草をせっせと食べてくれるという。除草剤を使わない無農薬栽培の、頼もしい助っ人なのである。
威厳を備えつつユーモラスな一面も持ちあわせ、かつ仕事熱心で有能――こんな上司がいたら最高だと思う。
「あの、じゃあ、毎年クリスマスになったら一羽減るなんてことは……」
デリケートな質問だとわかっていたけれど、どうしても気になって、失礼を承知で聞いてみた。
「ありません」
きっぱりと否定され、愚問を恥じた。
今日も、勤勉な彼らはハウスの中を闊歩(かっぽ)して、業務に励んでいるはずだ。その姿を思い出すたび、わたしはやっぱり、なんだかたのしい気持ちになってくる。