エンド・オブ・ライフ 佐々涼子著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

エンド・オブ・ライフ

『エンド・オブ・ライフ』

著者
佐々, 涼子, 1968-
出版社
集英社
ISBN
9784797673814
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

エンド・オブ・ライフ 佐々涼子著

[レビュアー] 秋山千佳(ジャーナリスト)

◆最期にきらめく生を照らす

 人間が新型コロナウイルスに大騒ぎする間にも、桜は咲き、散っていく。木そのものもやがては枯れる。すべての命は等しく致死率100%の存在だ。元気なうちは現実味がないし、突然最後の日が来ることもある。だが日本人の死因一位のがんであれば、多くの場合、終末期には命の閉じ方と向き合う日々がある。

 本書の軸となるのは京都の訪問看護師、森山文則(ふみのり)だ。禅僧のような風貌で四十代の働き盛り、在宅での終末医療で看(み)取った人数は二百人以上。そんな「看取りのプロ」自身に、すい臓原発のステージ4のがんが見つかるところから話は始まる。

 患者が死を受け入れられるように尽力してきた彼が、自らの死を受け入れることを拒む。キャリアと相反する代替医療やスピリチュアルの世界に惹(ひ)かれる。短期間のうちに揺れ動く森山だが、故郷の海を見つめながら「がんになったことによって、時間の進み方や、景色の見え方が変わってくるんですよ」と語る。

 そんな森山のエピソードに、著者の身内や、森山の勤め先である診療所の関わる、在宅医療による“エンド・オブ・ライフ”が交錯する。本人や周囲の話を受け止める著者は、陽(ひ)を反射する海のように、生のきらめきを自身の実感として照らし出していく。

 「人は、生きてきたようにしか死ぬことができない」と森山は語る。この言葉がチクリと刺さる人も、孤独死が珍しくないご時世に少なくないだろう。本書に登場するような医療従事者の支えがある人はそれだけで幸運と言える。

 とはいえ死を目にする機会が極端に減った今、幾人もの「亡くなりゆく人が教えてくれる最期のレッスン」は、生を考える貴重な学びとなる。病院での治療に唯々諾々と従うだけでなく、腹をくくれば最期まで主体的に生きる方法があるということも。

 森山は「最後のチャンス」と覚悟する著者の問いに、意外な答えを返して笑う。誰もがいつか通る道を必死に楽しみ、先に駆け抜ける背中は、人生の豊かさがその長短に左右されないことを物語る。
(集英社インターナショナル発行、集英社発売 ・ 1870円)

1968年生まれ。ノンフィクション作家。著書『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』など。

◆もう1冊 

佐々涼子著『エンジェルフライト 国際霊柩(れいきゅう)送還士』(集英社文庫)

中日新聞 東京新聞
2020年3月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク