『漢語の謎』
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「漢語」をめぐるスリリングな謎解き
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
テレビの世界では歴史の謎解き番組が元気だ。戦国武将や明治の重臣は、あのとき何を考え、どう動こうとしていたのか。表からは見えない事情を解きほぐしていくことには快感がある。新史料の発見から新たな視点が得られたりすると、もっと興奮する。そこに謎があったら解きたいと思うのが人間というものなのだろう。
荒川清秀『漢語の謎』も、同じ楽しみ方ができる本である。漢字は中国から輸入された文字なので、われわれはつい「中国語は話せなくても筆談でなんとかなる」と思いがちだが、日中で意味の違う字はいくらでもある。中国では「手紙」はトイレットペーパーを表すちょっと古い言葉だし(てがみは「信」で切手は「郵票」である)、「湯」は現代中国ではスープであってお湯でも銭湯でもない。こうした違いは、いつ、なぜ生まれたのか。
漢語を輸入した際に誤解があったり、意味を変えて流用したような場合。漢語に見えても日本製の熟語である場合。さまざまなケースが、仮説と証拠固めでかっちりと謎解きされていく。
覆水盆に返らずという言葉は日本でよく知られている。こぼした水はもう元に戻らないという意味だが、「盆」は平たいから、水の入れ物としてはかなり違和感がある。じつは中国では「盆」は洗面器のような形状のものをさす言葉だと本書で知った。漢字が同じだと、意味の違いは見えにくい。これは興味深いテーマである。