乙一氏激賞!「すべてのページ、すべてのセリフ、すべての地の文がおもしろい」 WEBで大人気の【主人公観察コメディ】が書籍化!

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同じクラスに何かの主人公がいる

『同じクラスに何かの主人公がいる』

著者
昆布山葵 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041091791
発売日
2020/03/28
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

乙一氏激賞!「すべてのページ、すべてのセリフ、すべての地の文がおもしろい」 WEBで大人気の【主人公観察コメディ】が書籍化!

[レビュアー] 乙一(作家)

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(評者:乙一 / 作家)

 主人公の二宮蒼汰は、主人公ではない。

 何を訳のわからないことを、と思われるかもしれないが、小説『同じクラスに何かの主人公がいる』は、そういう物語なのだ。彼は特別な能力を持たない一市民にすぎず、何の才能も持たず、困難を前にしても右往左往することしかできない。だから、彼はまるで僕みたいだ、と思う。どんな物語に描かれた登場人物よりも自分に近しい。だから、これは僕の物語でもあり、君の物語でもあるのかもしれない。

乙一氏激賞!「すべてのページ、すべてのセリフ、すべての地の文がおもしろい」...
乙一氏激賞!「すべてのページ、すべてのセリフ、すべての地の文がおもしろい」…

 二宮蒼汰のクラスには、神宮寺流星という少年がいて、彼は人知れず謎の怪人と戦っている。彼こそがこの小説世界の主人公である。二宮蒼汰は様々な日常の違和感から【この世界は何者かが作った漫画やアニメのようなフィクションなのだ】と気づく。その上で、モブキャラらしく目立たずに暮らそうとする。

 自分はこの世界において主人公ではないという感覚。わかる。才能を持った一握りの者たちが活躍し、僕たちはそれをテレビで眺めていることしかできない。普通の物語では忘れ去られるような、そんな存在に焦点をあてたこの小説は、やはり普通じゃない。

 正直言って、すべてのページ、すべてのセリフ、すべての地の文がおもしろい。二宮蒼汰が【この世界はフィクションだ】という視点を持ち合わせているせいで、全ての場面にメタ的なツッコミが入る。アニメや漫画やライトノベルや特撮ヒーローものなんかでよく見かけるあんなシーンやこんなシーンが次々と繰り出されるのだが、二宮蒼汰という視点を通すと、あるあるネタとして昇華され、実に味わい深くなる。

 作中世界の主人公・神宮寺流星はギャグ漫画的な世界観の中で生きている。たとえばの話だけど、彼は居眠りをしている時、漫画的表現でよく見られる【鼻提灯】をふくらませる。しかし二宮蒼汰の意識は僕たちと同じ現実の世界観を持ち合わせている。現実世界において漫画的記号である居眠り時の【鼻提灯】など滅多に見かけない。だから、鼻水を主原料としてふくらんでいる風船が異様なものとして認識される。

 神宮寺流星を取り巻くギャグ漫画的な世界観と、二宮蒼汰の現実的な世界観とのギャップが常に楽しく、実験小説のように興味深い。とあるギャグ漫画家さんと話をした時、「ギャグ漫画を描くには発明が必要だ」とおっしゃっていた。従来見られなかった新規な方法が必ず表現の根幹にあるという意味だろう。小説『同じクラスに何かの主人公がいる』は完全にそれである。発明に大成功している。

 想像してほしい。
 登場人物が「これは小説だ」と自覚している小説を。
 その上で、登場人物が作者の意図を見抜き、反逆しようとする小説を。

 二宮蒼汰は平穏な日常を送るため、主人公とは関わるまいとする。フィクションの世界において、主人公に関わってしまったキャラクターはトラブルに遭遇することが多いからだ。しかし彼の望みとは裏腹に、主人公と親しくなってしまい、戦いへと巻き込まれていく。二宮蒼汰の前に立ちはだかるのは、主人公が戦っている怪人というよりも、【作者の意向】である。【作者の意向】によって登場人物たちは不幸な目にあい、過酷な運命にさらされる。そんな作者に抗おうとする二宮蒼汰の姿は、神の支配から自由になろうとする人間のようであり、親の庇護をはなれて一人で生きていこうとする子どものようである。ユーモアの際立つ作品だが、自分の意思で自分の人生をつかもうとする少年の成長に確かな感動がある。一発ネタだけの作品ではない。熱い魂が込められており、昆布山葵先生の力量が感じられた。

▼昆布山葵『同じクラスに何かの主人公がいる』の詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000189/

KADOKAWA カドブン
2020年3月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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