“本書く派”立川流の一人が著した2時間で学べて語れる落語本

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“本書く派”立川流の一人が著した2時間で学べて語れる落語本

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 我が落語立川流は本格派とも本書く派とも言われています。著作を複数持つ落語家が多いからで、著者ももちろんその一人です。

〈はじめに〉の書き出しはこうです。

 吉田茂元首相が、選挙活動中にコートを着たままぶっきらぼうに演説をしている際に、「外套(がいとう)をとれ!」と聴衆から野次を飛ばされたとき、こう言い返しました。

「外套を着てやるから、街頭演説です」

 晩年に訪問客から「お顔の色が大変いいようですが、何を召し上がっていらっしゃるのですか?」と問われたときはこうです。

「人を食ってます」

 有名政治家のエピソードで笑いを誘い、読者をスルリと引き込むところは落語で言う「枕」で、我が弟弟子ながら見事な導入です。実際、吉田茂の落語好きは有名で、昭和の名人と言われる志ん生(五代目)や文楽(八代目)を料亭に呼んでは楽しんだと言われています。著者は、それがユーモアのある演説に生きた、偉い人は必ず落語を聴いている、と話を展開するわけです。

 第1部 これだけは知っておきたい日本の伝統芸能「落語」、第2部 日本の伝統芸能と落語界のレジェンドたち、第3部 ビジネスマンが知っていると一目置かれる落語と読み進むうち、タイトルの『教養としての落語』が生きてきます。そうだよな、日本人ならこれぐらいのこと知ってていいよなとなるのです。

 外国人は自国の文化や芸能を胸を張って披露します。一方日本人はそれを問われ、ヘドモドしてしまう傾向にあります。そんな時、伝統芸能として敷居の高くない落語を紹介するのはいかがでしょうと、著者は勧めていて、それは同じ落語家としてまったく異論のないところなのです。

 新型コロナウイルスは拡大し、終息の気配を見せません。動きも制限されています。ここはじっくり、「2時間でざっと学べてすぐに語れる」落語を勉強しておきましょう。

新潮社 週刊新潮
2020年4月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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