ヘップバーンが邪魔しちゃう! ド近眼眼鏡に囲われ男?〈あの映画 この原作〉

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ティファニーで朝食を

『ティファニーで朝食を』

著者
トルーマン・カポーティ [著]/村上 春樹 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784102095089
発売日
2008/11/27
価格
737円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ヘップバーンが邪魔しちゃう! ド近眼眼鏡に囲われ男?

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 小学生の時から今まで何回この映画を観たか。原作は中学生時代に読んで、その後何回も。村上春樹の新訳は若々しく軽やかな印象。しかし、ジバンシーのドレス姿のヘップバーンのイメージが圧倒的で、いつ読んでも彼女の表情や声がダブってしまい、読書の邪魔!

 レストランのない宝石店で食事? タイトルについて解釈したがる人が多いのもこの作品の特徴かも。ホリー(原作では18歳10カ月の若さ)が言う。「お金持ちにはなりたい。でも自我は捨てたくない。たとえティファニーで朝食を食べるようになっても自分を見失いたくない」(要約)これ、中学生にもわかる比喩ですよ。

 カポーティはホリー役にマリリン・モンローを推したという説があるが、本当かな。だって彼が描いたホリーはスレンダーで大きな印象的な目と口、洗練された粋なファッションとサングラスの美人。モンローじゃないですね。

 原作の舞台は、映画より20年近く遡った第2次大戦中のNY。街に戦争の暗い影はなく、ホリーは金持ちの男たちと高級クラブでの夜遊びやパーティー三昧のふしだらな生活を送っている。同じアパートに住んでいた「僕」(当時は作家の卵)が、彼女がNYを去ってから10年以上過ぎたある日、彼女とのことを回想するという構成である。映画は進行形で描かれるが、大胆に脚色したのは同じアパートに住む日本人カメラマン。出っ歯にド近眼眼鏡で喚き散らして滑稽。当時の日本人像はこの程度なのかとがっくり。さらに信じられない脚色は、作家の卵が生活のために金持ち女の囲われ者になっていること。高級娼婦と思われても不思議でない自由奔放なホリー役をヘップバーンが渋り、説き伏せるために、相手役の方をこんな残念な設定にしたのかと勘繰ってしまう。

 映画の演出やハッピーエンドが原作の精神を台無しにしたという見方もあるが、アメリカ映画の魅力満載で音楽も含め都会的で好き。

 原作は深読みしようと考えず、自由を求める若い女性と彼女に惹かれる青年とのちょっぴりほろ苦いけれど優しい物語として読むと本質であるみずみずしい魅力に触れられるのでは。

新潮社 週刊新潮
2020年4月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク