女警視と巨漢刑事がつばぜり合い? 警察署内で発生した殺人事件

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女副署長

『女副署長』

著者
松嶋 智左 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101020716
発売日
2020/04/25
価格
737円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

女警視と巨漢刑事がつばぜり合い? 警察署内で発生した殺人事件

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 警察は典型的な男社会だといわれるが、女性警察官も着実に増えている。むろん中には優秀な人材も存在するわけで、本書のヒロイン田添杏美警視もそんな一人だ。

 日見坂署は県の郊外、山際にある小規模な所轄。数ヶ月前、田添はそこの副署長に抜擢され任に就いたが、八月頭の今、同署は大型台風の襲来で騒然としていた。大規模な被害が出れば非常参集がかかるかもしれず、署に泊まり込む者も少なくなかった。だが風雨が強まる深夜零時過ぎ、異常事態発生。署の駐車場で男の遺体が発見される。

 地域課第二係係長・鈴木吉満警部補がナイフで刺殺されていたのだ。被疑者は未だに署内にいる可能性もあり、巨漢の刑事課長・花野司朗は「このヤマは、必ずわしらの手で始末をつける」といきり立つが、防犯カメラには第一発見者の佐伯悠馬巡査以外、何も映っていなかった。

 署長や田添までも容疑者と見なす花野。もともと女副署長との関係は良好ではなかったが、今回の一件では何故かより辛辣な態度で当たるのだった。そんな中、田添は鑑識係の新米・祖父江誠巡査から、被害者に借金のあるパトカー乗務員が取り調べを受けていると知らされる……。

 表題から田添の一人舞台を想像される向きもあろうが、物語としては群像劇仕立て。女副署長のみならず、非常事態に直面した日見坂署員たちの姿がスリリングに描き出されていくのだ。とりわけ田添と花野のつばぜり合いが読みどころだが、台風直下でしかも衆人環視的状況という点では、嵐の山荘ものや密室殺人ものの趣もあり、本格ミステリーのファンも面白く読めるに違いない。

 著者は女探偵ものの『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』で島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞、単行本デビューした逸材だが、本書は『第三の時効』や『64』等、横山秀夫の県警ものの傑作に優るとも劣らぬ出来映えだ。

新潮社 週刊新潮
2020年5月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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