『ポール・マッカートニー作曲術』
- 著者
- 野口義修 [著]
- 出版社
- ヤマハミュージックメディア
- ISBN
- 9784636958409
- 発売日
- 2020/03/20
- 価格
- 1,980円(税込)
ポールの前衛ぶり、実験好きが浮き彫りに 作曲術を大公開した世界初の労作
[レビュアー] 本橋信宏(ノンフィクション作家)
ポールは前衛的だった。
ビートルズの楽曲の大半をつくったのは言うまでもなくジョン・レノン&ポール・マッカートニーのコンビだった。
自己の内面を訴えかける天才肌のジョンに比べて、ポールは大衆にウケるヒットメーカーというのが大方の印象だろう。
ところが本書を開くと、あらためてポールの前衛ぶり、実験好きが浮き彫りになる。
究極の実験的作品と呼ばれたジョン主導の「トゥモロー・ネバー・ノウズ」。曼荼羅の極彩色にカモメのような鳴き声が飛び交うサイケデリックな楽曲だが、素材テープをつくったのはポールだった。3分がシングル曲の平均録音時間だった当時、「ヘイ・ジュード」は後半部分からいきなり大合唱に転じ7分11秒という長尺の曲に仕上げた。「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の制作途中、ジョンの楽曲を受けてポールがミドル部分を創作してひとつにつなぎ、エンディングに向け登り詰めるオーケストラマジックを完成させた。ポールはやっぱりすごかった。
著者によるポールの“3回リピートの法則”とは、「シー・ラヴズ・ユー」の“Yeah”3連発、「抱きしめたい」の“I can’t hide”3連発、のように同じ歌詞を3回繰り返し印象を高め、メロディをつくっていくもの。
ポールらしいビートルズっぽさを表現する基本コード“マッカートニー・コード”の典型、IVmは、「明るい曲想の中に、瞬間の寂しさや切なさ、儚さなどを挿入する感覚」だと著者は定義づける。なるほど、なるほど。
詞のジョン、曲のポール、という印象が強いが、私としてはポールの作詞術はジョンに引けを取らないと思っている。デビュー時の「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」で、ポールは“Well, she was just seventeen, never been a beauty queen”と作詞した。それに対してジョンが、韻の踏み方がダサいと、後半部分を“You know what I mean”に変更させた。英語曲は韻の踏み方が重要になる。
それから2年後、世紀の名曲「イエスタデイ」でポールは、“yesterday”の韻を“Suddenly I’m not half the man I used to be”の“used to be”で踏むという高度なテクニックを駆使するに至った。レコーディングは23歳の誕生日の4日前。すごい。
本書は「ビートルズのデビューと同時に彼らにはまり、『寝ても覚めてもビートルズ』な少年時代」を過ごしてきた著者による、ポールの作曲術を大公開した世界初の労作である。