思考力は模倣で鍛える。マーケターの筋トレ「マーケティングトレース」

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思考力は模倣で鍛える。マーケターの筋トレ「マーケティングトレース」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

マーケティングトレースとは、企業のマーケティング戦略をフレームワークに落とし込んで分析し、言語化や図解をしながら思考力を鍛えるトレーニング手法です。

自分自身がテーマ企業のCMO(最高マーケティング責任者)になった想定で、戦略の仮説作りまでを行います。(「はじめにーーマーケティングを学びたいすべての人へ」より)

ちなみにこれは、マーケティング思考力を鍛えるためのトレーニングとして『マーケティング思考力トレーニング』(黒澤友貴 著、フォレスト出版)の著者が考案した造語だそう。

トレースとは「なぞる」という意味ですが、つまり優良企業のマーケティング戦略をトレースする(なぞる、真似する、模倣する)ことで、成果につながるマーケティング戦略・戦術を自分のものにすることを狙いとしているのだそうです。

この場合の「トレースする」とは、自分なりに言語化・フレームワークを活用して図解すること

マーケティング思考を身につけるためには、日々のトレーニングが必要。

そこで、日常のなかでマーケティング思考を磨くトレーニングにしたいという想いを込めて、「マーケターの筋トレ」という表現を用いているのだといいます。

いずれにしても、まず最初にマーケティングトレースについての基礎的なことを確認しておきたいところではあります。

そこできょうは第1章「マーケティングトレースーマーケターの筋トレーとは何か?」に焦点を当ててみたいと思います。

マーケティング思考とはなにか?

そもそもマーケティング思考とはなんなのでしょうか?

また、なんのためにマーケティング志向が必要なのでしょうか?

著者はこうした問いに対して、次のように答えています。

マーケティングは組織が価値を提供し その対価として消費者が金銭・時間などのコストを支払う交換行為 (11ページより)

つまり、企業と生活者の双方がともにハッピーになる構造をつくることがマーケティングだということ。では、マーケティング思考とは?

マーケティング思考とは何か?

① 届ける価値を最大化・最適化する

② ユーザーのニーズ・ウォンツが満たされる(喜ばれる)

③ 企業が儲かる

(12ページより)

本書では、この①~③の流れをつくり出すための考え方を「マーケティング思考」と定義し、よい価値を届けられる構造を考えることを「マーケティング思考」としているわけです。

マーケティング思考がないと仕事はうまく回らず、「成果が出ない」「儲からない」としたら、それはマーケティング志向の欠如した仕事の結果なのだと著者は主張しています。

しかもマーケティング思考は特定の人にだけ求められるものではなく、仕事をするすべての人に必要なもの。

ロジカルシンキングと同じように、仕事をするうえでの基礎スキルだということです。(11ページより)

模倣する力を鍛えよう

「優れた人物、優れたものがあったら、恥じることなく大いに見倣って勉強すべき」 「徹底してその人に見倣い、研究し、模倣する。その過程で個人の能力は相当高まるだろう。そして、その高まった能力によって個人のオリジナリティというものが生み出されることになると思う」

ドトールコーヒーの創業者、鳥羽博道氏の言葉です(出典『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』日経ビジネス人文庫)。 (13ページより)

「トレース」ということばの性格な定義ではないものの、マーケティングトレースにおける「トレース」ということばには、なぞる、真似する、模倣するという意味が込められているのだそうです。

つまりは、「よい模倣する力」を身につけるためのトレーニングとして位置づけているということ。

そして、なぜ「トレース」がマーケティング思考を鍛えるために必要なのかを説明するために、著者はここで日本の伝統芸能の世界で有名な「守・破・離」という考え方を引き合いに出しています。

① 守……お手本や基本を忠実に守る

② 破……お手本に自分なりの工夫を加える

③ 離……まったく新しい自分独自のものを作る

(14ページより)

この守破離は、独自のアイデアもトレース(模倣)から始まるということを教えてくれる法則として、ビジネスの世界でも使われることの多いことば。

また、それは師匠や他の作家の作品を模倣する画家や作曲家、優れた作品を模倣するコピーライターやデザイナーなどにもあてはまること。

どんな分野においても、よい手本をトレースすることは一流になるための基礎トレーニングとして根づいているということです。

ビジネスの世界ではネガティブに受け取られるかもしれないものの、模倣することは、すべての学びの基本。そして、仕事で成果を上げるために必要なことだと著者は断言しています。

だからこそ、マーケティングトレースから優れた事例の模倣を繰り返し行い、戦略の引き出しを増やしていくべきだと。

とはいえ表面的な真似では意味がなく、大切なのは、実践に活かせる知識にすることを目指して模倣すること。

極端な例ですが、「この企業がこの広告媒体に投資しているから、自分もマネしてみよう」というのは、よい模倣ではありません。 企業の成功は、ビジョンや理念、ビジネスモデル、組織文化などが絡み合っています。

この裏側の仕組みや価値観から理解して、根底から模倣する力を磨いていくことを、マーケティングトレースでは推奨しています。(14~15ページより)

たとえば上司から「マーケティング戦略を考えてほしい」「おもしろくて成果が上がりそうな企画を考えてほしい」というような無茶な依頼があったとしても、「以前にトレースした企業のどれといちばんパターンが似ているか」「どこから戦略を持って来られそうか」を考えれば、仮説を導き出せるようになるわけです。(13ページより)

こうした基本を軸としながら、以後の章では具体的な事例も紹介されていきます。そのため、マーケティングトレースをしっかりと理解することができるはず。

マーケティングトレースは、実践すること、継続することで成果を体感できるといいます。そこまでたどり着くために、本書を活用してみてはいかがでしょうか?

Photo: 印南敦史

Source: フォレスト出版

メディアジーン lifehacker
2020年6月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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