第7回河合隼雄賞が決定 物語賞に三浦しをん『ののはな通信』 学芸賞に藤井一至『土 地球最後のナゾ』

文学賞・賞

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 第7回河合隼雄物語賞・学芸賞の選考会が5月29日に行われ、物語賞に三浦しをんさんの『ののはな通信』(KADOKAWA)、学芸賞に藤井一至さんの『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』(光文社)が選ばれた。

 物語賞に選ばれた『ののはな通信』は、野々原茜(のの)と牧田はなが交わす手紙やメモ、メールによるやりとりのみで構成された書簡体小説。名門私立女子高に通いながらも庶民的な家庭で育つ野々原茜は、いつしか同じ学校に通う外交官の家に生まれた牧田はなに友達以上の気持ちを抱いてしまう。その二人の少女のおよそ20年に渡る成長と人生が描かれる。

 書評家の杉江松恋さんは同作を《自分が独立した存在というのは錯覚で、必ず他の誰かによって生かされている。本書はそうした社会の関係性を、二人という特殊な形で表現した作品でもある。読後には、私はなぜここにいるのか、と自身に問いかけてみたくなるはずだ》と評している。
https://www.bookbang.jp/review/article/554415

 著者の三浦さんは、1976年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2000年に長篇小説『格闘する者に○(まる)』でデビュー。以後、『月魚』『秘密の花園』『私が語りはじめた彼は』などの小説を発表。『乙女なげやり』『あやつられ文楽鑑賞』『悶絶スパイラル』『本屋さんで待ちあわせ』『ぐるぐる♡博物館』など、エッセイ集も注目を集める。2006年に『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年に『舟を編む』で本屋大賞、2015年に『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞している。他に小説『むかしのはなし』『風が強く吹いている』『きみはポラリス』『仏果を得ず』『光』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『木暮荘物語』『政と源』などがある。

 学芸賞に選ばれた『土 地球最後のナゾ』は、カナダ極北の永久凍土からインドネシアの熱帯雨林まで世界各地を飛び回り、土の成り立ちと持続的な利用方法を研究している藤井さんが、研究の過程と成果をまとめた一冊。

 詩人の渡邊十絲子さんは《「バカやっている人」の輝きには抗しがたい魅力がある》と本作に触れながら、《冒険談としてもおもしろく読めるが、大半のページにあるカラー図版を眺めているうちに、知らなかったことがザクザク学べる》と評している。
https://www.bookbang.jp/review/article/560499

 著者の藤井さんは、土の研究者。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員。1981年富山県生まれ。京都大学農学研究科博士課程修了。博士(農学)。京都大学研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、現職。著書に、『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』がある。

 今年で7回目を迎える同賞は、2013年に一般財団法人河合隼雄財団が創設。物語賞は、人のこころを支えるような物語をつくり出した優れた文芸作品に与えられ、河合隼雄が深く関わっていた児童文学もその対象とする。学芸賞は、優れた学術的成果と独創をもとに、様々な世界の深層を物語性豊かに明らかにした著作に与えられる。選考は1年ごとに行い、毎年3月からさかのぼって2年の期間内に発表・発行された作品を選考対象とする。選考結果の公式発表は「新潮」誌上および「webでも考える人」サイトで行い、候補作の公表はしていない。

Book Bang編集部
2019年6月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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