『果てしなき輝きの果てに』
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アメリカ警察の腐敗を問う社会派ミステリの傑作
[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)
今年の一月にアメリカで出版され話題になっていたミステリの邦訳が、早くも登場した。折しも、ミネソタ州で白人警官が黒人男性を死に至らしめた事件が大きな波紋を呼んでいるが、本書はアメリカの警察の体質的な腐敗を問う社会派ミステリでもある。家族小説、シスターフッド小説でもあるし、良質な文学作品でもある。どこからどうお勧めしようか迷うぐらいの多面的傑作なのだ。
中心となるのは、フィラデルフィアに暮らす姉妹だ。子どもの頃から優秀な長女ミッキーと、人を魅了するルックスのケイシー。厳しい祖母のもとで支えあってきたが、ふたりの人生は次第にすれ違い、姉は大学進学をあきらめて警官になり、妹はオピオイド依存に陥り、体を売って生きることになる。
物語の縦軸では、薬物中毒がらみの女性連続殺人事件の捜査と、失踪した妹捜しが展開するが、横軸では、姉妹の凄絶な過去が明かされていく。ふたりの人生がかけ離れていった理由のひとつには、彼女たちの母親の問題がある。ケイシーには姉に対する僻みがあるが、姉は姉でプアホワイト一族のなかで警官職についたことで忌み嫌われ、孤独を味わう。
また、ミッキーはシングルマザーとして息子を育てているが、そうなった経緯がまた複雑で、つらい。この題材だけで小説が一本書けるほどだ。
こうした妹のいるミッキーは麻薬中毒の事件には熱が入る。女性の死体に絞殺の痕を見つけ、殺人事件として捜査をするよう上司に訴えたこともあるが、とりあわれず、むしろ職務逸脱として監察に訴えられたりする。じつは犯人は……小説が現実を反映していると思うと恐ろしい。
ケイシーの行方と、殺人事件の犯人は? Long Bright Riverというタイトルは、死した人は「長く輝く一筋の川」の流れに連なっていく、という、詩人テニスンの詩からとられている。今年度ミステリベストの有力候補となるだろう。