コロナ禍で大切なのは、いまある自分を受け入れる「セルフ・コンパッション」

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コロナ禍で大切なのは、いまある自分を受け入れる「セルフ・コンパッション」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

つらいことや困ったこと、理不尽に感じることなどに直面することは、誰にでもあるものです。

そんなとき多くの人は、怒りや悲しみなどの感情にとらわれてしまい、落ち込んだり取り乱したりしてしまうのではないでしょうか?

しかし、そんな状況下においても自分を見失うことなく、普段と変わらない力を発揮できるようになることは決して難しいことではないと主張するのは、『自分を思いやる練習 ストレスに強くなり、やさしさに包まれる習慣』(有光興記 著、朝日新聞出版)の著者。

感情の問題に対処するために、セルフ・コンパッションの観点を取り入れた臨床実践と研究を行っているという、関西学院大学文学部総合心理科学科教授です。

その「セルフ・コンパッション」とは、果たしてどのようなものなのでしょうか?

本書では、その方法として、今現在の自分自身を受け入れ、やさしい気持ちを向ける「セルフ・コンパッション」を提案します。 セルフ(self)とは自分自身、コンパッション(compassion)とは悩みや苦しみを解消してあげようというやさしい愛情のことです。

つまり、自分を思いやってみてほしいのです。(「プロローグ 今、私たちに必要なのは自分にやさしくできる力」より)

つまり私たち人間は、自分にやさしくできる力を必要としているというのです。たしかに仕事でうまくやっていくためには、日々のストレスに対して柔軟であることが必要。

また、困難な場面に遭遇したとしても、そこから立ち上がる忍耐力が求められます。

だからこそ、自分にも他人にもやさしさを持つことが大切なのだという考え方。

ましてや昨今のコロナ禍においては、ありのままを受け入れ、お互いを思いやり助け合って難局を乗り切る力が必要だといいます。

では、具体的にどう考え、なにをすればいいのでしょうか? セルフ・コンパッションの実践編であるChapter 3「小さな幸せがあふれる一日を過ごす」のなかから、仕事に関連した3つのポイントをピックアップしてみたいと思います。

セルフ・コンパッションは、慈悲の瞑想を日々実践することによって、さまざまな場面で活用できるというのです。

通勤ラッシュは周囲との共通性に気づく

電車やバスに乗るために列をつくって待っているときは、することがなくて退屈に感じてしまうかもしれません。

そんなときは自分、そして列をつくっている人にコンパッションを向けてみるといいそうです。

立っている場合は、「立っています。感じています」と足の裏に気づきを向けて瞑想をすることができます。その合間に、自分に向けて「私が幸せでありますように」とフレーズを唱えます。

さらに、並んでいる人たちに「あなたが無事目的地に着きますように」といったフレーズを投げかけてみましょう。(中略)並んでいてもイライラせずに、同じ境遇にある他者と心地よくつながっている感覚が生まれてくるかもしれません。(197ページより)

乗ろうとする電車やバスが到着しても、すでに満員だったということもありえます。

そんなときは気持ちが沈みがちですが、いやいや乗ると、乗車後もずっとイライラし続けることになりがちです。

その結果、横の人にちょっと肩が当たっただけで腹が立ってくるかもしれません。

そんな状態を避けるために大切なのは、乗る前にひと呼吸置いて、乗り込むときにはゆっくり足を進め、マインドフルに足の裏の感覚と、目に入ってくる後継を受け入れること

自分を含め、その乗り物にいる全員が幸せであることを望み、その思いでまわりを包み込むべきだというのです。

すると他の乗客への配慮が自然にできるようになり、不思議と穏やかな気持ちで満員のなかに入っていけるということ。

その結果、いつもと同じ電車においても視野が広がり、他の乗客のいろいろな顔が見えてくるというわけです。(197ページより)

きょうの幸せを願って職場に向かう

ようやく目的の駅に着いたとしても、そこから職場まで距離があるというケースもあるでしょう。そんな場合は、さらに「歩く慈悲の瞑想」を実践できるといいます。

まずは自分自身に向かって「きょう無事に仕事ができますように」と願い、職場に着くまでの間に知人に出会ったとしたら、その人に対してもいつくしみの気持ちを送ろうと著者は提案しているのです。

自分を含めて「私たちが……」と主語を変えると、よりしっくりくるかもしれません。他者とのつながりを感じ、喜びや幸せがわき起こってきます。

笑顔で挨拶する自分に気づけるでしょう。(199ページより)

また、駅や職場内で、エスカレーターの代わりに階段を使うことも効果的だとか。

そうすれば、歩く瞑想と同じように、足の動き、足の裏の感覚に気づくことができるからです。(198ページより)

3分の呼吸のあとに挨拶する

仕事に追われていると、朝から緊張の面持ちになってしまい、挨拶も充分にできなかったりします。

まだ具体的な仕事が生じていなかったとしても、頭のなかは締め切りを過ぎているかのように切羽詰まってしまうわけです。そんなときは、ひと呼吸置くことが大切。

頭の中が忙しくなっていたら、3分間呼吸空間法をおすすめします。これは、1分間ごとに瞑想の内容を変えて、心を整える方法です。

最初の1分間で、心や身体がどのような状態にあるかを探り、今現在の感覚を受け入れていきます。次の1分間で、呼吸の動きに気づきを向け、おなかの膨らみ、縮みに気づいていきます。もし雑念が浮かんで来たら、そのことに気づき、またおなかの膨らみと縮みに気づきを戻していきます。

最後の1分間では、全身で呼吸するかのように、意識の中心を呼吸の動きから身体全体へと広げ、身体のどの箇所でも生じてくる感覚に気づいていきます。そして、身体のあらゆる感覚を、ありのままに受け入れていきます。(200ページより)

デスクに向かっているとき、あるいは静かにいられる場所などで、この3分間呼吸空間法に取り組んでみることを著者は勧めています。

そうして少し落ち着いてから職場の方と顔を合わせると、自然と笑顔で挨拶や会話ができるようになるそう。

たとえ忙しかったとしても、余裕を持って話ができるようになるということなので、試してみる価値はあるかもしれません。

仕事に追われる日常生活においては、つい自分を追い込んでしまいがち。しかし自分と他人にやさしくすることができれば、たしかに気持ちを楽に保てるかもしれません。

ストレスフルな時代だからこそ、セルフ・コンパッションを実践してみるべきではないでしょうか?

Photo: 印南敦史

Source: 朝日新聞出版

メディアジーン lifehacker
2020年7月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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