『あぶない法哲学 常識に盾突く思考のレッスン』
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テキトーな常識を疑い抜く快感
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
生物学者・福岡伸一の『生物と無生物のあいだ』が世に出て、こりゃ理系からエラい書き手が現れたと驚き喜んでから早十数年、今度は文系からスゴい書き手が登場して再驚喜。同じ版元の『あぶない法哲学』で一般書デビューの法哲学者・住吉雅美が、その人です。
法学だ哲学だのプロが捏ねくりまわす禅問答は、数式や化学式の連続の方がまだ眼と脳に優しいくらいなのが相場。まして法学と哲学を足して2を掛けたみたいな法哲学がテーマだもの、この新書を開くときは正直、恐るおそるだった(そもそも、法哲学モノの新書ってのが珍しい存在だし)。
が、前書きで著者が法哲学の道を志すまでの来歴を知らされただけで警報解除→武装解除。「太陽にほえろ!」の山さんファンで女優志望だったとか、「アナーキー・イン・ザ・UK」が高校生のころの心の歌だったとか、自分語りのエピソードがいちいち濃いうえに語り口が柔剛自在で巧みだから、法哲学の教授になった同級生と呑み屋で深遠な馬鹿話をしてるような錯覚に陥り、あとはラストに至る270ページが、ただもうよく効く脳のマッサージ&エクササイズでした。
学校で習った哲学者・思想家から現代の法学者・経済学者までの古酒新酒を揃えて、人類永遠の不条理から安倍ニッポンの不合理までを肴に考え、語る。テキトーな常識を疑い抜く苦い快感は、倉橋由美子の『シュンポシオン』で繰り広げられる饗宴を思い出すほどで、つまりは読む至福です。