1万メートルの深海底へ 新書の中で遠足を

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

見えない絶景 : 深海底巨大地形

『見えない絶景 : 深海底巨大地形』

著者
藤岡, 換太郎, 1946-
出版社
講談社
ISBN
9784065179048
価格
1,100円(税込)

書籍情報:openBD

1万メートルの深海底へ 新書の中で遠足を

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 新型コロナの流行で、長距離移動が不自由になった。ときどきは見知らぬ土地に行きたい人にとって、この状態はつらいと思う。旅の気分を味わう代替手段もあるだろうが、いっそのこと、感染症の問題があろうがなかろうが絶対に見に行くことができない風景を本で楽しんでみてはいかが。

 藤岡換太郎『見えない絶景 深海底巨大地形』によれば、この地球にはわれわれの知らない絶景がある。海底地形のスケールはとにかく大きい。地上最大の地形はヒマラヤ山脈で、6000~8000メートル級の高山が約2400キロメートルにわたって連なっているが、海底の巨大な溝であるマリアナ海溝は、1万メートル級の溝が約2550キロメートル続いている。海溝の底から見上げれば(海水があるので不可能だが)、陸地は1万メートル上にあるわけで、想像するとそのカッコよさと怖さにクラクラする。

 第1章では、架空の潜水艇に乗って海底の絶景を見物しながら世界を一周する。第2章は「なぜ深海底の地形はこんなにも巨大なのか」の解説。第3章以降の話題は、プレートテクトニクスや地球の誕生にまで広がる。じつに盛りだくさんの遠足をした気分だ。

 深海ファンにはおなじみの「海溝斜面、深度6200メートル付近に横たわる謎のマネキン頭部」(ほとんどホラー)の写真がここでも見られてうれしいが、深海にゴミが散乱することには責任を感じる。見に行けない場所でも、絶景は美しくあってほしい。

新潮社 週刊新潮
2020年7月30日風待月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク