『セルフケアの道具箱』
書籍情報:openBD
自己責任に疲れた人たちへ シンプルで直感的なメソッド
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
終わりの見えない自粛生活が続く中、深刻な社会問題となりつつあるのが“コロナ疲れ”。休園・休校の影響により家事の負担が急増したことに加え、テレワークを中心とする労働環境の急激な変化で、メンタルの不調を訴える人も多い。
そうした人びとにとっての心の受け皿の役割を見事に果たしているのが伊藤絵美『セルフケアの道具箱』だ。7月初旬の発売からわずか2週間で3刷1万部。書店営業もままならない状況下にあって非常に好調なスタートを切っている。
「著者の伊藤先生は、臨床心理士として30年のキャリアの持ち主で、今まさに困っている人たちの立場や状況を経験知として非常によく理解しているんです。とことん実用的なカウンセリングの書を目指したことが、このタイミングで人びとの心を捉えた要因かもしれません」(担当編集者)
ストレスにやられている人は、そもそも文章をじっくりと読むエネルギーが失われていることが多い。そこで徹底して意識したポイントが、シンプルな言葉づかいと視覚化だ。
内容は認知行動療法、コーピング、スキーマ療法などの専門的な理論に基づいている一方、専門用語はほとんど登場しない。あくまで平易な言葉を使い、「何かをギューッと抱きしめる」といった、誰でも今すぐ試せるような具体的な行動メソッドが小分けにして並べてある。さらに、文章をじっくり読まなくてもメソッドが直感的に理解できるよう、イラストを積極的に採用して工夫した。そのキャッチーなイラストを担当したのは『ツレがうつになりまして。』で幅広い共感を呼んだ漫画家・細川貂々だ。
「コンパクトで視覚的な情報はSNSとも相性がいいんです。こうした内容を発売前から少しずつツイッター上にアップしていたことも反響につながりました」(同)
セルフケアとは「自分で自分を上手に助けること」。これは“自粛”という言葉に象徴されるような自己責任論とは異なり、むしろ互助的なスタンスに基づくものだ。本書は、コロナ下で分断され拠りどころを失った人びとの心に確かに寄り添い、力を与える。