むしろシニアにピッタリ “チープ列車旅”のノウハウ満載

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旅鉄HOW TO 007 60歳からの青春18きっぷ入門

『旅鉄HOW TO 007 60歳からの青春18きっぷ入門』

著者
松本典久 [著]/「旅と鉄道」編集部 [編]
出版社
天夢人
ISBN
9784635822268
発売日
2020/06/30
価格
1,320円(税込)

むしろシニアにピッタリ “チープ列車旅”のノウハウ満載

[レビュアー] 石江一郎(ライター)

 安い、JRならどこまでも乗れるが鈍行限定。だから暇と体力はあるけどカネのない若者たち御用達――。

 青春18きっぷに抱いていたそんなイメージは完全に覆された。

 たしかに安くて遠くまで行ける。現在、値段は1枚1万2050円。これは5回(5日)分なので、1回(1日)あたり2410円。本書によると、東京駅を朝4時台の始発で発って、普通・快速列車を乗りつぎ乗りつぎ西進すれば、ほぼ深夜零時に九州は小倉駅に到着できるという。じつに1100キロの距離を、新幹線の9分の1の運賃で行けてしまう。

 それほど長時間の乗車は苦行だというなら、たとえば東京駅発で東海道線の二宮駅までを往復、あるいは高崎線の籠原駅までを往復すれば、2410円の“元はとれる”計算。列車に揺られること4時間を超えると、損益はプラスになるそうな。

 本書はそうしたノウハウを、これでもかとばかり親切に伝授してくれる。前述の“1日でどこまで遠方へ行けるか”“どの駅が損益分岐点となるのか”を、東京、名古屋、大阪などの主要駅を基点に地図入り(!)で解説。旅のボトルネックになりかねない、発着の少ないローカル路線も詳細に列挙されてありがたい。

 しかし真骨頂は“金をかけずに遠くまで”などというコスト至上主義で書かれていないことだ。途中下車も可、行きつ戻りつの乗車もOKというきっぷの特徴を利して、のんびりゆったり、ノープランの気ままな旅を推奨する。途中駅で降り、近隣を巡り、再び目的地を目指すプランでは、時刻表のどこに着目すべきか。特急や新幹線、指定席を利用する際、手続きやら支払いやらはどうなるのか。ルールに縛られず、無理や我慢もしない旅の提案に紙幅が割かれる。

 トイレはどうする? 携帯すべきものは何? 車窓の風景を愉しむには日照時間に注意! なるほど痒いところに手が届く内容ばかり。青春18きっぷはもう、シニアのものだ。

新潮社 週刊新潮
2020年8月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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