“天才”ホーキング博士、ALSで考えた「人生を大切に生きること」――限りある人生を後悔せず生きるために

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不運にも運動神経系の疾患にかかってしまったが、それ以外はほとんどすべての面で幸運だった―とくに理論物理学を学んだのは幸運だった。
理論はすべて頭の中のことだからだ。
おかげで病気は深刻なハンディキャップになっていない。
(『ホーキングInc.』より)
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天才物理学者・ホーキング博士は、ALSという難病と闘いながらも、その生涯をかけて宇宙とその仕組みを探求し続けました。その強さはどこから来るものなのか――2014年、英国BBCのテレビ番組内で地上と国際宇宙ステーションでホーキング博士と対話してことがある宇宙飛行士・若田光一さんが博士の言葉を読み解きます。

※本稿は、『宇宙飛行士、「ホーキング博士の宇宙」を旅する』(若田光一著)を再編集しています。

「いつか終わる人生」で躊躇している時間はない

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私は、時間の大切さを身にしみて知っている。
いまという時を逃してはならない。
行動するのはいまだ。
(『ビッグ・クエスチョン 〈人類の難問〉に答えよう』より)
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ホーキング博士は「宇宙」という広大な空間を研究テーマに、頭の中で自由に時間と空間を行き来しながら思考を巡らせていた一方で、ALSという難病により肉体的にとても不自由な境遇にありました。脳内の自由さと肉体の不自由さを併せ持ちながら、両極端な状況の中で生きてきた人です。

ALSは世界中の多くの患者さんを苦しめている難病です。病気の進行につれて筋肉が弱っていき、歩行や食事、呼吸をすることすら困難になっていく――もし私が患者であったら、「いつまで自分は生きられるのだろうか」と、頻繁に考えるかもしれません。 

ALSと一生懸命闘っている方々の中にも、日々過ごす時間を自分にとって有意義なものにしていこうと務めている方は多いと思います。仕事でもそうですよね。ある仕事を夕方までにやらなければならないというタイムリミットを自分で設定すれば、今日1日の時間をどう使うのが望ましいかを考えてスケジュールを組み立てていくことと同じです。

健康な人でもいつか人生は終わるわけで、誰もが長い短いという差はあれど、人は誰しも時間的な制約を持って人生を生きています。そういった時間的なリミットを常に念頭に置きながら、一瞬一瞬を最大限に楽しみ、実りを大きいものにしていこうとする姿勢は、どんな時でも大切だと思います。そして、「人生を大切に生きる」うえで重要なのが、迅速な意思決定と行動力です。

選んだ選択肢よりも大切なこと

私は、NASAの宇宙飛行士室でサバイバル訓練やリーダーシップ訓練を何度も受ける機会がありました。アメリカ空軍や海軍出身の宇宙飛行士と一緒に訓練していると「A bad decision is better than no decision.」という言葉をよく聞きました。「悪い意思決定のほうが何も決めないことよりは良い」という意味です。

たとえば、真冬の山中で道に迷った時、本当は西に進むのが正しかったとしても、その時は東か西か、または北か南に行くべきかはわかりません。そんな時、何も決めず、動かないままでいてその場で凍死するよりも、どの方角に行くか決めて進んでみるほうが、活路が見出せる可能性が高いというわけです。たとえそれが結果的に悪い決定だったとしても、何も決めないで動かないよりはマシだからです。

もちろん実際のサバイバルでは、その場に留まって救助を待ったほうが生還できる可能性が高いケースもあるわけで、少し短絡的な訓戒かもしれません。ただ、人生には時間的なリミットがあり、躊躇して何も行動せずに後悔するより、じっくり考えて積極的に挑戦していくほうが、自分が納得できる人生を歩んでいけると思います。

行き詰ったときこそ、一歩引いてみる

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行き詰っても、逆上してはいけない。
何が問題かを考え、他の方法を試す。
前に進む道を見つけるのに何年もかかることもある。
ブラックホール情報パラドックスには、29年かかった。
(『The Guardian 2005』より)
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「人生にはリミットがある」と決まっているからこそ、思うように物事が進まない時や行き詰った時、私たちはとても不安になります。ホーキング博士には科学を探求するための類稀な資質がありました。しかし、なにより逆境のなかにあっても自分の可能性を信じる強靭なメンタルこそが一番重要な「才能」だったように感じます。

何かに行き詰まった時、「押してダメなら引いてみろ」みたいな方向転換も確かに大事です。ただ、そのタイミングや加減が難しく、どこまでやり切って方向を変え、次に行くのかというところで立ち止まってしまいます。

また、物事に気持ちが集中している時は、なかなか一歩引いて全体像を把握しながら進めるのはなかなか難しいものです。

最短距離で、最も効率的に、確実に前進しているという自覚があったのが、後で振り返ってみたら、じつはそれは回り道だったり、脇道にそれていたり、場合によっては後退していたり、ということもあるかもしれません。もう少し早めに気づいて方向転換するほうが良かったのに、突き進んで行き着くところまで来てしまって、初めてそれがわかるというケースです。

「ぶつかった壁」の存在に気づけたことも成長

「突き進んで行き詰まる」というのが必ずしも悪いわけではありません。全力投球していたが、最後に壁にぶち当たってしまった――振り返れば回り道だったかもしれないけれど、その後の人生のための貴重な教訓になる経験もあります。全力で突き進み、壁にぶつかったからこそ、この方向には壁があることを知ることができたわけです。

その気づきは、必ず次のチャレンジに活かされるはずです。いや、活かさなければなりません。今回はこう間違ったけれども、次はこう工夫してみようと対策をとるわけです。失敗するかもしれないが、自分が納得いくまでとことん突き詰めてやったからこそ、成果が自分のかけがえのない経験として刻まれる、という積み重ねが大切です。

どんな物事でも最短距離で、失敗せず、効率的に進めたいというのは当然ですが、そううまくはいかないのが現実です。

ホーキング博士が言っているように、行き詰まっても逆上せず、立ち止まらずに続ければ、どんなに回り道をしたとしても自分の目指すゴールにたどり着くことができるはずです。失敗を教訓とし、諦めることなく試行錯誤を経て前進しようとしている時間は、精神的に非常につらいです。しかし、後で振り返ってみると、最も自分が成長している時ということも少なくありません。

いつか自分も死ぬわけですが、やはり最後まで前のめりで死にたい、常に挑戦者でありたいという想いがあります。明確な目標に向け、できる限りのことを考え、挑戦し続けることで、いつか巡り合うチャンスをつかんで目標に到達できると信じています。

日本実業出版社
2020年9月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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