【聞きたい。】石原燃さん 『赤い砂を蹴る』 人の死の先を生きる

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赤い砂を蹴る

『赤い砂を蹴る』

著者
石原 燃 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163912363
発売日
2020/07/13
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】石原燃さん 『赤い砂を蹴る』 人の死の先を生きる

[レビュアー] 海老沢類(産経新聞社)

 劇作家としてのキャリアはすでに十数年。初めて挑んだ小説である本書は受賞こそ逃したが第163回芥川賞候補にも選出された。「小説はまだ一作しか書いていない。これから続けていくことの方が大事だと思う」と冷静に受け止める。

 亡き母の友人と一緒にブラジルを旅する主人公の「私(=千夏)」がいくつもの生と死を回想する物語。幼い弟の不慮の死。世間の冷たい視線にめげず、パートナーの男性をかえながら画業に生きた自由な母。そんな母に愛憎入りまじる思いを抱きつつ最期をみとった自分…。痛苦を乗り越え、たくましく生きようとする女性たちの魂の連帯を、南米の大地に舞う赤い砂がやさしく包む。

 自らの母との記憶が底に流れる。国際的な作家だった母の津島佑子さんが平成28年に死去。母の作品を読み返し、依頼された後書きを小説風に書いてみた。母の姿を近くで見てきただけに「小説を書くハードルの高さは知っていた」。でも書きながら「戯曲とは違う楽しさも感じた。劇作では『社会派』といわれることが多かったけれど、もう少し個人的な話を書きたくなった」。言葉があふれ出す。ブラジルにも足を運び原稿用紙約200枚の本作を数年がかりで仕上げた。

 「人の死や女性の生きづらさを書き続けた母の作品が私の助けになった部分もある。人の死があって、その先を生きる-。一歩踏み出す、前進する、という形で動きのあるタイトルにしたかった」

 文豪・太宰治の孫にあたることが話題になったが、「代表作をいくつかさらっと読んだくらい。祖父としても作家としてもあまり知らない」と話す。

 「戯曲と違って小説では(人物の)内面まで描写できちゃう。だからこそ難しい部分もある」。小説の奥深さを感じながら原稿に向かう。(文芸春秋・1400円+税)

 海老沢類

   ◇

【プロフィル】石原燃

 いしはら・ねん 昭和47年、東京生まれ。武蔵野美術大卒。30代から劇作家として活動。平成22年、『フォルモサ!』で劇団大阪創立40周年戯曲賞大賞。原発事故直後の東京を描く『はっさく』は全米で上演された。

産経新聞
2020年9月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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