なぜ、全ての対策が後手に回るのか。 その背景には日本が抱える官僚組織に一因がある。【書評】角川新書『なぜ日本経済は後手に回るのか』(森永卓郎)

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なぜ、全ての対策が後手に回るのか。 その背景には日本が抱える官僚組織に一因がある。【書評】角川新書『なぜ日本経済は後手に回るのか』(森永卓郎)

[レビュアー] 森永康平(株式会社マネネCEO、経済アナリスト)

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(評者:森永 康平 / 株式会社マネネCEO、経済アナリスト)

 2020年も残り3カ月を切った。少し気が早いかもしれないが、2020年は、新型コロナウイルスに大きな影響を受けた1年だったと総括できるだろう。日本国内の感染者数の推移を見れば、4月に第1波、7月に第2波が到来し、これから気温が下がる年末に向けて、第3波を懸念する声を耳にする機会も増えてきた。依然として気は抜けない状況が続く。

 未だに新型コロナウイルスの治療薬や特効薬、ワクチンは開発されていないが、国内で感染が拡大し始めた2月頃に比べれば、新型コロナウイルスに関するデータも蓄積され始めたことで、感染拡大を防止しながら、同時に経済活動も極力自粛しないようにする新しい生活様式が少しずつ浸透してきたように思える。これが俗に言うウィズコロナ時代のライフスタイルなのであろう。ウイルスの脅威と闘いながら、多くの犠牲を払いつつも共存する方法を見つけつつあるのだ。

 時計の針を少し戻そう。新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に確認されてから、先進各国はロックダウンと呼ばれる都市封鎖を行うなど、感染拡大防止を最優先にさまざまな対策を打ってきた。当然、その影響は大きく、特に経済へのダメージは甚大なものとなった。そこで、各国政府は大幅に減速した経済を下支えすべく、前例がない規模の財政出動を行った。今になって当時を振り返ってみれば、あのときはこうしておけばよかったのに、と後付けの批判は可能だが、当時は新型コロナウイルスが未知のウイルスでもあったことから、過剰気味の感染拡大防止策を取ったことは仕方がなかったと思う。

 しかし、「あれは仕方がなかったことだ」と片付けてしまうのではなく、この一連の新型コロナウイルスへの対応と、それがもたらした結果をしっかりと分析し、今後に活かしていくべきだ。なぜなら、私たちは過去に例がないほど不確実性の高い時代を生きているからだ。

 来年は新型コロナウイルスが変異して再び猛威を振るうかもしれないし、また別のウイルスが流行するかもしれない。はたまた、水害や震災などの天変地異が起こるかもしれないし、テロや戦争が起こってもおかしくない。不確実性の高い時代では、不測の事態が頻繁に起こりうる。その際に行き当たりばったりの政策を打つのではなく、過去の経験を生かして可能な限り被害を抑え込む必要がある。そのような観点からすれば、そろそろコロナ禍における対策と結果を時系列で分析していくにはちょうどいい時期なのではなかろうか。

 本書では、日本政府が新型コロナウイルスに対してとった感染拡大防止策と経済政策についてさまざまなデータを基に検証を行っている。詳しくは本書に譲るが、たとえば日本人の多くは、日本の新型コロナウイルス対策は世界的に見てもうまくいったと認識している。その理由を探ってみると、日本人はマスクをするからとかキレイ好きだから、というデータに基づかない印象論が根拠になっているようだ。しかし、データを見てみると、日本の対策がうまくいったように見えるのは欧米各国と比較した場合であって、日本が属するアジアという地域で比較をすれば真逆の感想を抱くことになる。

 また、新型コロナウイルスに対する経済対策として、「第2次補正予算は第1次補正と合わせて事業規模で200兆円を超える」として、「GDP(国内総生産)の4割にのぼる空前絶後の規模で、世界最大の対策」と強調されたが、データを正しく見ていけば、真水の数字(国が直接支出する、実際に使われるお金)はGDPの1割程度に過ぎなかった。

 なぜ、これほどの危機に対してさえも、全ての対策が後手に回るのか。その背景には日本が抱える官僚組織に一因があると筆者は指摘する。筆者の実体験に基づいた解説はとても臨場感がある。

 新型コロナウイルスがもたらした波乱を、がむしゃらに乗り越えてきた人たちが、これまでの出来事を頭の中で整理しながら、これからの日本の在り方や、進んでいくべき方向を考えるパートナーになりうる一冊となるだろう。

なぜ、全ての対策が後手に回るのか。 その背景には日本が抱える官僚組織に一因...
なぜ、全ての対策が後手に回るのか。 その背景には日本が抱える官僚組織に一因…

▼森永卓郎『なぜ日本経済は後手に回るのか』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322004000812/

■評者プロフィール

森永 康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO、経済アナリスト。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。現在は複数のベンチャー企業のCFOや監査役も兼任。日本証券アナリスト協会検定会員。Twitterは@KoheiMorinaga

KADOKAWA カドブン
2020年10月15日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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