昭和史の隠れたドン 唐獅子牡丹(ぼたん)・飛田東山(ひだ・とうざん) 西まさる著

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昭和史の隠れたドン―唐獅子牡丹・飛田東山

『昭和史の隠れたドン―唐獅子牡丹・飛田東山』

著者
西まさる [著]
出版社
新葉館出版
ISBN
9784823710360
発売日
2020/09/01
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

昭和史の隠れたドン 唐獅子牡丹(ぼたん)・飛田東山(ひだ・とうざん) 西まさる著

[レビュアー] 内田誠(ジャーナリスト)

◆「闇」に切り込む続編を待つ

 飛田勝造(東山)とは何者か。背中に背負った唐獅子牡丹の彫り物と「弱きを助け、強きを挫(くじ)く」その行動とによって、任侠(にんきょう)映画「唐獅子牡丹シリーズ」のモデルとなった人物、というのがわかりやすい。しかし、著者は飛田の遺族に託された段ボール六、七箱分の資料から、飛田勝造という人のリアルな人生を再構成しようと試みる。

 浮かんできたのは「日本の権力の暗部に出入りした存在」であり、「フィクサー、黒幕、陰の首領、無冠の帝王、右翼の大物」とおどろおどろしい。権力に近いところで、隠然たる力を持った人物だったことは想像がつくのだが。著者はそうした飛田にすっかり惚(ほ)れ込んでしまったようで、さまざまに語られる「武勇伝」の動機や背景を、ほとんど「義侠心(ぎきょうしん)」に回収してしまうので、本書全体が一種の「任侠映画」のようでもある。

 明治三十七年、現在の茨城県大洗町で生まれた飛田勝造は、九歳ででっち奉公に出される。軍隊生活の後、港湾労働者の世界で頭角を現した飛田は、やがて飛田組を起こし、さらに全国百四十万人の下層労働者を扶桑会に組織する離れ業をやってのけた。これこそ、その後の飛田がさまざまな局面で行使し得た力の源泉であり、「労働ボス」と呼ぶべき立ち位置だろう。

 戦前は地下の軍需工場建設やダム工事で軍や行政に恩を売り、権力に接近。戦後は、東京・青梅に広大な土地を入手して「東山農園」と称し、下層労働者の保護という念願を実践したというが、この一冊を読み終えても飛田の人物像は明確ではない。戦中の朝鮮や中国で何をしていたのか、記述が控えられているからだ。

 戦中は特務機関にいて、中国の民衆工作に従事していたとあるのみで、配下に児玉誉士夫(よしお)がいたというから、幹部だったようだが、「義侠心」から最も遠いその時代の飛田の実像は不分明のままだ。戦後、朝鮮戦争の頃の事績も併せ、是非「続編」で明らかにしてほしい。そうすれば、飛田勝造の「光と闇」が見えてくるのだろう。

(新葉館出版・1650円)

 1945年生まれ。作家・編集者。著書『中島飛行機の終戦』など。

◆もう1冊 

伊藤博敏著『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館文庫)

中日新聞 東京新聞
2020年10月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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