【気になる!】文庫『異聞浪人記』
[レビュアー] 産経新聞社
関ケ原後、江戸に充満する浪人の間で大名屋敷に押しかける一種のゆすり「狂言切腹」が流行。井伊家の屋敷にも玄関先での切腹を望む浪人が訪れる。これに井伊家の老職は一計を案じるが、浪人にもたくらみがあった(表題作)。
直木賞に6度ノミネートされ、作品がカンヌ国際映画祭出品作やドラマにもなった著者の傑作短編集。
敵討ちの苦行を浮き彫りにする「綾尾内記覚書」、組織の犠牲となる末端武士と家族の悲哀を描く「仲秋十五日」など、武家社会の残酷さと、侍の矜持(きょうじ)、意地がしみる6編を収録。まさに傑作ぞろいだ。(滝口康彦著、河出文庫・870円+税)