志賀瞳が「hitomi」になって描いた夢 自由な発想力からは得るものが多い
[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)
レジェンドメイド「hitomi」。秋葉原の萌(もえ)産業界で彼女を知らない者はいない。そして彼女が、この本の著者「志賀瞳」である。
メイド喫茶全盛期、私は秋葉原文化を学ぼうと一番人気のあった「あっとほぉーむカフェ」で働くことにした。そこで出会ったのがトップメイドとして君臨していたhitomiである。可愛さ、お給仕(接客内容)の素晴らしさ、どれをとっても彼女に敵うものはいなかったのだが、彼女の凄さはそれだけではなかった。「萌え萌えじゃんけん」や提供ドリンクを美味しくするための「愛込め」など、その後萌産業のスタンダードになっていったものすべてが彼女の“発明”だったのである。メイド喫茶というガチガチの設定の中で、彼女は自由な発想で開拓し続けた。それは遊びに来た客=ご主人様・お嬢様がメイド喫茶という世界に浸って、非日常を味わえるように考えられていた。当時、大学で美術を学んでいた私はこんなに凄いインタラクティブ・アートは他にないと感動した。その後、彼女はメイド喫茶という特殊な文化を一時のブームで終わらせることなく、“秋葉原”を世界に通用するレベルに高めた功労者となる。もはや、日本のエンターテインメント業界にとってもなくてはならない存在である。
彼女は元々、普通の“女子高生”であり“ギャル”だった。大半のメイドが数ヶ月から数年で辞めてしまう中、彼女は夢を持ち、バイトから会社代表まで上り詰めた。そして、現役メイドでありながら結婚を公表し子を産み母になるという、秋葉原では御法度であった……というより前例がなかった事をやってのけたのである。本書には志賀瞳が「hitomi」になるまでの過程や、夢を見つけて道を切り開いていく様子が書かれている。彼女の自由な発想力は、仕事術として得るものが多い。メイドたちと同じ“永遠の17歳”という魔法にかかって、恐れず夢を追ってみよう。