前向きな気持ちは脳を活性化させる。毎日できる脳の幸せ習慣とは?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
「どうしたらもっと幸せに生きられるのか」、それは多くの人々にとって重要な問題です。
『科学的に幸せになれる脳磨き』(岩崎一郎 著、サンマーク出版)の著者は、このことについて数多くの論文、エビデンスをもとに、脳科学の観点から答えを導き出したのだといいます。
それは、「脳を磨けばいい。そうすれば人は豊かに幸せに生きられる」というもの。
脳を磨き続けることで、「経済的な安定や豊かさ」「自分の仕事に対する誇り」「働きがい」「ともに生きていく仲間や家族」「健康」、そして「生きがい」などを手に入れることができるというのです。
職人は経験を積んでいくことで「腕」を磨いていきますが、脳もこれと同じです。
特定の脳の使い方を続けていくことで、脳は磨かれていきます。
その方法を、本書では「脳磨き」としてお話ししていきます。
日々の健康習慣の「歯磨き」のように、誰もができる幸せ習慣です。(「プロローグ 最新の脳科学で導き出された『脳磨き』」より)
著者は25年以上にわたり、ノースウェスタン大学医学部脳神経科学研究所など、米国を中心に世界最先端の医学脳科学研究に従事してきたという実績の持ち主。
帰国後に会社を立ち上げてからは、多くの企業で「人生を豊かにする脳トレ研修」として「脳磨き」を伝えきたのだそうです。
つまり本書は、そうした実績とエビデンスによって裏づけられたものであるわけです。
きょうは第3章「『前向きな気持ちが人生を変える』を脳科学的に裏づける」のなかから、興味深いトピックを抜き出してみたいと思います。
前向きになると視野が広がり、気づきが高まる
人は生きていく過程において、思わぬストレスにさらされることがあります。
そんなときにはどうしても、マイナス思考に陥りがち。
それは仕方がないことかもしれませんが、たとえ過酷な状況でも、どこかに光を見出して前向きになったほうが、脳機能は高まり、困難を乗り越える知恵や工夫が湧きやすくなるのだそうです。
ここでは、そのことを立証する科学的研究が紹介されています。まずひとつ目は、米カーネギーメロン大学のクレスウェル博士らの研究。
73人の学生を2つのグループに分け、ひとつのグループの学生には過去の自分のプラス体験に目を向け、「自己受容感」(自分はできるという前向きな気持ち)を高めてもらいます。
もうひとつのグループの学生に対してはそれを行いませんでした。
その後で、両グループの学生に脳機能を調べるテストを受けてもらいました。(112 〜113ページより)
その結果、過去の成功体験を思い出して「自己受容感」を高めたグループの学生は、前向きになって脳機能が35%も高くなっていたのだとか。
そればかりか、ストレスのある状況でも脳機能が高いままに維持されていたというのです。
また、「気持ちが前向きになると視野が広がり、気づきが高まる」ということを報告しているのは、米ワシントン大学のホール博士ら。
80人の慢性的なストレスを抱えている人たちに協力してもらい、グループをふたつに分けます。
ひとつのグループには、前出の研究と同様に、「自己受容感」を高めてもらいます。
もうひとつのグループでは、「自己受容感」を高めることをしません。(113ページより)
両グループの人たちにテストを受けてもらったあと、「視野がどのくらい広がっているか」を調べるため、本人たちには内緒で次のようなテストを行ったそうです。
実験室の前の受付テーブルに、「還付金申し込みのチラシ」を置いておきました。この実験に参加した人は、自ら申し込みをすれば誰でも還付金を受け取ることができます。
しかしどちらのグループの人たちに対しても、あえてチラシの存在を知らせずに、このチラシがあることに気づくかどうかをテストしたのです。(113〜114ページより)
その結果、自己受容感を高めたグループでは全体の48%の人がチラシを持ち帰ったそう。60%の人がテーブルの前で立ち止まり、そのうちの80%がチラシを手に取ったというのです。
一方、自己受容感を高めなかったグループでチラシを持ち帰った人は、全体の14%のみ。40%の人がテーブルの前で立ち止まり、チラシを手に取ったのはそのうちの36%だったといいます。
「自己受容感」を高めた人は脳機能が高まる
クレスウェル博士らの研究と同じく、この研究でわかったのは、たとえストレスを抱えている状態であっても、「自己受容感」を高めた人(=前向きになっている人)は、脳機能が高まるということ。
それだけでなく、「自己受容感」を高めた人は視野が広がり、重要な情報をキャッチしやすくなることもわかったのです。
情報格差という言葉もあるように、現代ではとくに情報をキャッチできるか、またその情報の内容を理解できるかがその人の生活(ときには人生)に大きく影響します。
この点においても前向きでいることは重要なのです。(114〜115ページより)
どちらのケースにおいても、よい結果が出るパターンでは「まず前向きになってもらう→よい結果が出る」となっているわけです。
このことからも、自然に前向きになる秘訣のひとつとして著者は「過去の経験で気持ちが前向きになったときのことを思い出す」ことの重要性を説いています。
大切なのは、「過去のやり方」ではなく、そのときの「気持ち」を感じること。そうすれば、無理に前向きになろうとしなくても、自然と前向きになれるということです。(112ページより)
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「脳磨き」のポイントは、次の6つ。
・感謝の気持ちを持つ
・前向きになる
・気の合う仲間や家族と過ごす
・利他の心を持つ
・マインドフルネス(脳トレ坐禅)を行う
・Awe(オウ)体験をする
(「プロローグ 最新の脳科学で導き出された『脳磨き』」より)
ほとんどがオーソドックスなものであることがわかります。
つまり「脳磨き」は、難しいことではないのです。ぜひ、取り入れてみてはいかがでしょうか?
Source: サンマーク出版
Photo: 印南敦史