逆境を乗り切るために「いま」経営者がすべきこと――優れた「理念」には、必ず人と社会が味方する

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COVID-19の影響で先行きが見えないなか、経済活動と感染拡大防止の両立を図るため、各企業ではIT化やテレワーク導入を急加速しているものの、資金繰りや雇用維持など経営者の悩みは尽きません。廃業か事業継続か、選択を迫られるケースも増えてきました。国内外のビジネスの第一線で活躍してきた新 将命(あたらし まさみ)氏は「いま必要な視点は『これからどうなるか』ではなく『どうするか』だ」と言います。キーワードは「原点回帰」。新氏の新刊『経営理念の教科書』から、そのヒントを読み解きます。

自分の運命は自分で支配せよ

人生を川の流れにたとえて歌い上げたのは、昭和を代表する大歌手・美空ひばりである。川の流れのままに翻弄される落ち葉のように、人は運命のままに流される。運命には抗(あらがえ)ないものだ。人生は運命に支配されていると考えている人は多いだろう。

ところが、そうは思っていない人間もいる。「自分の運命は自分で支配せよ」と檄(げき)を飛ばしたのは、GE(ゼネラル・エレクトロニクス)社の中興の祖、元CEOのジャック・ウェルチである。彼は続けてこう言っている。

「さもないと他人に運命を支配されてしまう」(Control you destiny, or someone else will)

自分の運命を他人に支配されてよいと考える人はいないはずだ。だが、他人まかせのまま、人生を送っている人を見ることは少なくない。仕事は部下(同僚)まかせ、政治は政治家まかせ、明日のことは風まかせという人は、結局、自分では何も責任を取ろうとしない人である。

自分の運命を自分で支配することを怠ると、誰かがあなたの運命を支配してしまうという警告の言葉は、他人まかせの無責任な態度を戒めているのだ。もし、自分の運命を他人の手に委ねている人がいたら、その人が人生の勝者となることはあり得ない。経営学者ピーター・F・ドラッカーのこんな箴言(しんげん)もある。

「未来を予測する最善の方法は自分の手で未来を創ることである」(The best way to predict the future is to create it)

運命を支配するには…

運命に抗って勝利できるか否かはわからないが、挑戦することもなく、自分を律することもしない人に、勝利の女神は微笑まないはずだ。

自立できる人は「自律できる人」である。運命に翻弄されるだけの負け犬になりたくなければ、まず自分がどういう人間になりたいかを明らかにするという「自省」と「内省」「省察」という作業が必要となる。

「どういう人間になりたいか」がはっきりしたら、次に「どうすればそうなれるのか」計画を立てる。計画とは、すなわち時限付きの工程表である。目標を達成するために「いつまでに何をして」「いつまでにどうなる」という工程表をつくったうえで、今日やるべきこと、明日やるべきことを定め、手を抜くことなく実行し続けることである。すわなち、

「卓越とは千の詳細である」(Excellence is a thousand details)

大きな成功とは小さな成功の積み重ねだ。今日一日を疎かにする人に、大きな成功は訪れない。自分を律することが大事なのである。

企業の運命を決めるもの

企業の運命も、景気や市場環境という運命に委ねているばかりでは負け犬必至である。自分の運命は自分が支配するように、企業の運命も経営者と社員で支配しなければならない。そのためには、どうすればよいか。答えは個人の場合と変わらない。

まず、どういう企業になりたいのか。そのために何をいつまでにやるのか。そのために今日一日を疎かにしないことである。どういう企業になりたいのかは、いわずと知れた「理念」である。

個人のケースでは、どういう人になりたいかは自分一人で決めればよい。だが、企業は「集団」である。どういう企業になりたいかは、経営者の「自省」「内省」「省察」を経て言語化されただけでは十分ではない。社員が共感し、共有するというプロセスを経なければ、経営理念は本当の力をもてないからだ。

「よそごと、ひとごと、他人ごと」に終わってしまう。これでは「わがもの、わがこと、自分ごと」にはならない。

現在の日本を代表する経営者の一人、稲盛和夫氏が京セラの創業期で直面したように、意見の衝突とアウフヘーベン(止揚)があってこそ、経営理念はみんなに共感、共有されるものに磨き上げられ、力をもつ。経営理念の力が、企業の将来の姿、すなわち企業の運命を決めるのだ。

企業が自らの運命を自分で支配するためには、景気動向や市場の変化に目を配ることも大事だが、原点にある経営理念の力を見逃してはいけない。景気動向や市場の変化に注意を払う以上に、経営理念を磨き上げ、多くの人に浸透させ、共感され共有されるように力を尽くすことが、自分たちの運命を切り拓くことになる。これも理念の力なのだ。

 ***

著者プロフィール:新 将命(あたらし まさみ)
1936年東京生まれ。早稲田大学卒業。株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなど、グローバル・エクセレント・カンパニーの社長職等を経て、2003 年から2011年3月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。「経営のプロフェッショナル」として50年以上にわたり、日本、ヨーロッパ、アメリカの企業の第一線に携わり、いまも様々な会社のアドバイザーや経営者のメンターを務めながら長年の経験と実績をベースに、講演や企業研修、執筆活動を通じて国内外で「リーダー人財育成」の使命に取り組む。おもな著書に『経営の教科書』『リーダーの教科書』(以上、ダイヤモンド社)、『上司と部下の教科書』(致知出版社)がある。

日本実業出版社
2020年11月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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