【話題の本】『浅草迄(まで)』北野武著 コミカルでやさしい記憶の情景

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 作家活動を本格化させている北野武(ビートたけし)さんが遠い記憶をたぐり寄せ、自らの原点をつづった私小説。10月26日の発売後、書店の文芸書ランキングの上位にも食い込み、2刷1万7000部に達した。

 誕生から高校時代を描く文芸誌デビュー作「足立区島根町」と、新宿のジャズ喫茶をさまよった大学時代を回想する表題作。小説2編に加えて、浅草での修行時代に出会った面白い人や店を書きとめた随想「浅草商店街」も収める。

 戦後から高度成長期の東京に生きる「俺」と、家族や周囲の人々のコミカルな日常を記憶の赴くままに自在に紡ぐ。悪ガキ3人組で桁外れのいたずらを重ねては、叱られた日々。東京五輪とビートルズの洗礼。疫病神のような父と優しい兄姉、ひそやかで深い母の愛情…。澄んだ目でとらえた記憶の情景は、暗い鬱屈を吹き飛ばすおかしみと明るさに彩られ、温かな余韻を残す。

 「悪口を書いている人たちに対しても、その根底には『愛』が感じられる。登場人物へのやさしいまなざしが魅力です」と担当編集者。この時代を知らない世代でも、読みながら不思議な懐かしさがこみあげてくるかもしれない。(河出書房新社・1300円+税) 
海老沢類

産経新聞
2020年11月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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