“たしなみ”として「脳の偏り」を知る
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
ウチの課長、オレが「今の20代にはもうそんな生活習慣はない」って何度言っても全然耳に入ってないんすよ――そんな嘆きをよく聞かされるこのごろだ。
それはね、課長が「今の20代のリアルな生活」に接していないからなんです。具体的な手触りを知らないものは、実在している実感をもてない。だから情報として教わっても記憶できない。そういう「脳の偏り」は若い人にもある。
鈴木宏昭『認知バイアス心に潜むふしぎな働き』を読んで、人間の脳の偏った働き方を知ろう。そのうえで、「通じる」話し方や見せ方を工夫すればいい。認知機能の偏り自体は悪者ではない。環境や状況に最もよくフィットするように脳の機能をカスタマイズしてきたからこそ、その偏りは生まれたのだから。人間の脳の「賢さ」と「愚かさ」は表裏一体なのだ。
この本は、人間の認知の偏り(バイアス)をあらゆる角度から解説してくれる。注意を向ける、記憶する、カテゴライズする、概念化する、選択する。あらゆる場面で脳はポンコツな動きをする。それは人間が磨き上げてきた脳の使い方(必要な情報を効率的に受け取り、すばやく判断する)の代償だから、そういうものとして受け入れるしかない。用途から外れた「効率のよさ」は、欠点に変わる。しかしその欠点を意識できていれば、あらゆる判断はずっとマシになる。
自分の脳のポンコツ加減を把握するというのも、大人のたしなみだと思います。