12月9日に発表された「Yahoo!検索大賞2020」において、辻仁成氏が作家部門賞を受賞しました。フランス・パリ在住の辻仁成氏は、本人が主催するWebサイトマガジンDesign Storiesにてコロナ禍の現状を発信。ニュースよりも早く情報が届くと話題に――。フランス・パリでは、感染拡大を受けて10月30日から二度目のロックダウンを行った。
そんな中、日本でも11月18日、厚生労働省は全国の新型コロナ新規陽性者数が2179人と過去最多を更新したと報告があった。1日の新規陽性者が2000人を超えたのは、この日が初めて。新型コロナの感染拡大に伴い、「第三波」の到来がはっきりとしてきた。
フランス・パリ在住の作家でありミュージシャンでもある辻仁成氏が新型コロナ感染拡大から1回目のロックダウンでの経験を記した『なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない』(あさ出版)を刊行。その中から新型コロナ第二波から学んだことを踏まえて第三波について思うことを紹介する。
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- なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない
- 価格:1,430円(税込)
予期していたコロナの第三波がやってきた
現在、辻氏はシングルファーザーとして、16歳の息子とフランスのパリで二人暮らし。2020年3月17日から5月11日までの約2ヶ月間、パリでのロックダウンを経験している。日用品の買い物などで外出する際、マスクの着用はもちろんのこと、帽子と眼鏡、手袋も身につけて完全防備だ。購入したものは消毒剤で洗ったり、野菜などは火を入れてから食べるなど、「これで感染をしたら、世界中の人が感染者になるだろう」と辻氏本人が言うほど、徹底した対策をとっていた。辻氏だけでなく、風邪をひいてもマスクをつけないフランス人たちがマスクをつけたり、雨合羽を着たりして徹底した対策をとっていたのだ。
ところが、パリでのロックダウンが終わって数日経った5月20日、外の様子を見るために辻氏が家から出てみると、マスクをつけていない人がいたり、人とくっついて歩いていたりと、ロックダウン前の風景に戻っていた。初夏ということもあり、辻氏も手袋の着用をやめてしまったり、購入したものの洗浄を忘れたりと、自分も周りも気が緩んでしまっていたという。
これは今の日本にも言えることではないだろうか? 当初は、新型コロナの感染拡大におののき、あらゆる対策をしていたにもかかわらず、新型コロナ新規陽性者の人数が減少するとともに対策にも気の緩みが出てきている。その結果、今回の第三波につながったと考えられる。
疲れは川の流れに
だからといって常に新型コロナに対して戦闘態勢であれば、心身ともに疲労するのが人間というものだ。
2月15日、新型コロナが流行しはじめたころ、辻氏はセーヌ川の川辺を散策していた。流れ続けるセーヌ川の川面を眺めながら、そこに人生を重ねていた辻氏は、ちょっと疲れている自分をその流れの中に見つけた。セーヌ川の流れは時に残酷であり、時に優しく、時に冷徹で、時に温かく、時に非情で、時に寛大であった。
自分が疲れていることに気がつかない人も多いので、日頃から「疲れていないか」と自問する必要がある。新型コロナの感染拡大によって生じたあらゆる制限下で暮らしていると、知らず知らずのうちに精神的な疲労などが蓄積しているだろう。だからこそ、「疲れていないか?」と自問して、疲れているかもというときには水の流れを見て、「流す」と良いだろう。
「流す」という概念は人生に疲れないための鉄則だと思う。この大量の水の流れの一滴である人間に出来ることは、流れることを由として、その無常から心を逸らさずに、ひたひたと生きることかもしれない。気にせず、無理せず、流しつつ、流されつつ、人は流れていくのがいい」
新型コロナは、ここでいう残酷で、冷徹かつ非情な川の流れである。しかし、この瞬間もこの川は流れ続けているのだ。
パリの絵が変わった後、今は――
2020年10月~11月にかけて、辻氏は仕事の関係で日本へ帰国した。新型コロナの感染拡大も落ち着き、飛行機の本数が減ってはいるものの海外への移動もできるようになった。日本に到着後の2週間、ホテルで自主隔離を行った。当初、パリで約2ヶ月間ロックダウンを経験したから2週間の自主隔離なんて余裕だろうと思っていた。しかし、実際に経験すると自宅ではない場所で外出もできない2週間の自主隔離は、ロックダウンに引けを取らないほど苦しい経験だったという。
その後、仕事をこなして帰国する直前、フランスは再びロックダウンになっていた。人生で二度目のロックダウンだった。
本書では、新型コロナのことだけでなく、シングルファーザーとして家事や育児、仕事に奮闘する日々のこと、料理のこと、友人や近隣住民とのくすっと笑えるやりとりなどが、パリの写真とともに、まるで小説のように記されている。
ワクチンの開発などはなかなか難しいかもしれないが、本書で記されている言葉たちが生き難い感染症の時代を生き抜く特効薬になればと辻氏は思っている。まさに、「なぜ、生きているのかと考えるのが今かもしれない」のである。
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