患者に寄り添う医師の挑戦
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
人間、生きていれば医師に頼る機会はいくらでもある。だから、医師自体はなじみのない存在ではない。しかし大病院の外科医は特別である。自分や家族が手術を受ける場面にならないと、接する機会はないからだ。そういうまれな機会なのに、会った医師はイラついていたり高圧的だったり。わたしは外科医とよい出会いをした経験がない。
外科医に悪感情をもたずに生きていくために、本を読んでみる。阪本良弘『がんと外科医』は、肝臓や膵臓がんの手術をしている医師のモノローグ。著者は、〈人生の辛い局面に立たされ〉ている患者に〈様々な治療方法を提示したうえで、外科手術という治療法を用いて、非日常を日常に戻していくために〉手伝うのが仕事だと自己紹介する。この人ならふつうに会話ができそうで安心した。
肝臓や膵臓の手術についてかなり専門的な内容まで解説されているが、知識を得るというより、新しい試みが次々になされていること、世界中が連携しあって進歩していることがわかるので励まされる。
じつは、この本を手にとった直接の動機は、著者が坂井律子の主治医だと知ったから。坂井の書いた『〈いのち〉とがん』(岩波新書)は一昨年当欄でも紹介したがん闘病記だが、自分の能力や特徴を活かした闘い方に目を奪われた。その闘病を、この本は担当医の立場から記述している。患者に寄り添うことについての医師の挑戦が書かれていると、わたしは読んだ。