ニューノーマルの経営者に必要な「意思決定のプロセス」とは?――VUCA時代には“アジャイル”で大胆な行動を

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世界的に感染拡大した新型コロナウイルスは経済界にも大きく打撃を与えました。生活やビジネスはコロナ以前に戻ることはできず、“ニューノーマル”と呼ばれる新常態への変化が求められています。そこで、企業経営における意思決定プロセスも、時代に応じて変わっていかざるを得ません。コンサルタントで『オペレーション トランスフォーメーション』の著者である高砂哲男氏は、ニューノーマルを生き抜くためには「アジャイル」な意思決定が必要だと指摘しています。

無意識のうちに人は膨大な意思決定をしている

人は1日に3万5000回もの意思決定を行なっているという研究結果が存在します。

・いま起きようか、あと5分寝ようか
・今日の服は何を着ようか
・ごはんとシャワーのどちらを先にしようか

意思決定というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、上記のような日々の何気ない選択も意思決定の一例です。このようなあらゆる意思決定を、じっくりと時間をかけて行なっていては、あっという間に1日が終わってしまいます。そこで、重要な意思決定を明らかにしたうえで、よりスピーディーに意思決定を行なう状態をつくることが必要です。

正しい意思決定よりも、間違った意思決定のほうが圧倒的に多い

どんなに優れた人物でも、判断を誤り間違った意思決定を行なうことはあります。むしろ、優れた経営者ほど、成功よりも失敗の数のほうが圧倒的に多いことを自ら公言しています。

人は、大きな変化や未知のモノを避けようとする「現状維持バイアス」が働くと、間違えることが怖くなります。間違えない意思決定を行なうために、様々な情報を入手し、客観的に判断しようとすることで、情報量が多くなり、どの情報をもとに意思決定すればよいのかわからなくなります。結果的に、重要な意思決定ができない、先延ばしにするといった事態に陥ることさえあるのです。

重要な選択を迫られているときほど慎重に情報を収集し、熟考を重ねた結果、メリットと同時にデメリットにも事前に考えが及び、なかなか意思決定ができない、タイミングを失ってしまった、といった経験を持つ経営トップも多いのではないでしょうか。

VUCAの時代では、慎重に情報を収集している間にも常に環境が変化しています。したがって、間違いを恐れずに、ある程度は間違えることを前提として、スピーディーな意思決定を行なう必要があります。

「やらないことを決める」ことから始める

変化の激しい環境の中では、新たな意思決定の場面に遭遇することも多く、その都度やることを一から考えていては大変です。やらないことをあらかじめ決めて、選択肢を少なくすることで意思決定をよりスピーディーに行なうことができます。

そのために、やらないことを「絶対やらないこと」「できればやらないようにすること」といったレベルに分けて明文化したリストを作成し、「やらないこと」を決めることから始めます。大きな意思決定を行なうときや判断に迷ったときに、そのリストを見直すことで一貫した意思決定を迅速に行なうことができるのです。

・絶対やらないこと

(例)利益重視により従業員に過大な負荷がかかる業務を推進する

・できればやらないようにすること

(例)準備期間を長く要する新規事業を行なう

必要ではないと判断したときは「やめる」勇気が必要

これまで行なっていたことが、「やらないこと」に当てはまった際は、続けか/やめるかといった意思決定が生じます。

「やめる」という意思決定は非常に重要で、かつ難しいものです。例えば、新たな部署に異動になったとき、前任者に気をつかうあまり本来は続けるべきではないと思っている業務も、やめるにやめられないといった状況は数多く存在します。

意思決定の際は見直しのタイミングをあらかじめ定めておくことが効果的です。見直すタイミングが増えるほど、いまの状況が正しくないと思える場面も増え、やめるという意思決定を自然な形で行なうことができるようになります。

間違えても影響を最小限に抑える意思決定を実践することで、やめることによる損失を抑えることができるのです。

「ここぞ!」というときは価値観・意志に基づいた判断軸が重要

意思決定は「選択する」ことが最大のポイントとなります。その中でも、何かを達成するために、何かを犠牲にしなければならないトレードオフの選択は難しい意思決定です。

・自分の考えを優先するか/他者の考えを優先するか
・生産を自社で行うか/他社に委託するか
・業務やシステムを標準化するか/カスタマイズするか

このような選択をするとき、無意識かもしれませんが、人は何らかの判断軸をもとに意思決定を行なっています。重視している判断軸を可視化し、環境の変化に合わせて判断軸を定期的に見直すことで、難しい選択が生じたときにもスピーディーな意思決定ができるようになります。

また、重視している判断軸には、「論理的・客観的情報から導かれる冷静な判断軸」と「自らの意志から導かれる情熱の判断軸」の2つの側面があります。

これまでの意思決定においては、客観的な情報をもとにした冷静な判断軸を設定することが重要でした。しかし、これからは冷静と情熱の双方が重要です。特に、「ここぞ!」という局面では自らの意志に基づく情熱の判断軸が大切です。

価値観に沿って直観的に意思決定をしていくことは、いまの時代に沿ったものともいえます。自らの価値観・意志と、それに基づく重視する判断軸を明確にし、冷静な判断軸だけではなく情熱の判断軸をも重視することでトレードオフの選択のような難しい意思決定も迅速に行なうことが可能になります。

また、重視する判断軸は定期的に見直す必要があります。ビジネス環境が変化すると、当然ながら重視する項目が変わるからです。これまでは正しいと思っていた判断軸がまったく意味をなさなくなることもあります。判断軸を適切に定めたうえで、重視する判断軸を定期的に見直すことができれば、意思決定自体も定期的に見直すことになり、結果的に望ましい意思決定ができるようになるのです。

すばやく行動し、軌道修正していく

「答えのない世の中を生き抜くためには、時間をかけて考えてから行動するやり方では間に合わず、まず、すばやく行動し、動きながら軌道修正していく」、つまり「アジャイル」(すばやい、俊敏)な意思決定が重要です。

間違えず正確に意思決定する」から、「意思決定を間違えても、大きな損失や悪影響が生じないようにする」ように、発想を転換するのです。このことを、身近なわかりやすい例で考えてみましょう。

Mさんは念願のマイホームを購入することを検討しています。しかし、30年の住宅ローンを組む大きな買い物です。物件は数えきれないほどあり、売り出し価格や最寄り駅、間取り、周囲の環境など、多くの条件を考慮しないといけません。それらを分析し、最適な物件を見つけられたとしても、隣に騒がしい住人が住んでいるかもしれない、そんなことを考えているとなかなか意思決定できません。

一方、もし決まった金額を払えば、魅力的な新築物件に住むことができ、気に入らなければ別の物件にいつでも移ることができるとしたら、どうなるでしょうか。物件を決める意思決定は格段に簡単かつスピーディーなものになるはずです。

こうした状況を、ビジネスの現場でもつくり出せばよいのです。そのためには、意思決定の種類、内容、判断軸等を掘り下げて可視化し、理解して社内で共有しておくことが重要となります。

間違えてもやり直しがきく環境をつくることでアジャイルに大胆な行動を起こすことが可能となり、VUCA時代を生き抜くことができるのです。

日本実業出版社
2021年1月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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