『新型コロナ「正しく恐れる」』
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<東北の本棚>過剰な感染予防に警鐘
[レビュアー] 河北新報
新型コロナウイルスの感染が再拡大する中、日常生活をどう送るか。国立病院機構仙台医療センターの西村秀一ウイルスセンター長が過剰な感染予防の取り組みに警鐘を鳴らし、「正しく恐れる」ための方策をまとめた。編者の日本経済新聞編集委員によるインタビュー形式で、課題を分かりやすく整理している。
昨年集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で検疫官を務めた経験などを基に、コロナはウイルスを含む粒子を空気を介して吸い込む「空気感染」が原因だと指摘。手指などを介した接触感染の予防に重点を置く対策に疑問を示す。
空気感染が原因であることを踏まえ、湿度の低い冬は「いきなり肺炎から始まる重症化例が多くなる可能性がある」とみる。対策として換気と3密の回避、屋内でのマスク着用、ヨード液によるうがいを挙げた。
一方、感染者の遺体の密封や公園遊具の使用禁止、全国一斉の学校休校などは科学的根拠がなく、「(予防を)『やっている感』を出すためのアリバイ」と厳しく批判。恐れ過ぎが感染者差別を招くほか、高齢者ら社会的弱者への支援が滞ることを懸念する。一元的な見方で不安をあおるワイドショー番組など、メディアの在り方にも苦言を呈している。
感染症の歴史を視野に、政策決定に関する提言も盛り込んだ。全世帯に配布した「アベノマスク」を例に、「日本は立ち止まるメカニズムが一つもない」と指摘。政権に直言する組織や人材を育てる必要性を強調した。
巻末には、感染リスクを上げかねないフェースガードの着用など「変なコロナ対策」の一覧を掲載した。コロナとの向き合い方を見つめ直し、長丁場を乗り切る知恵を与えてくれる一冊。「コロナ疲れ」にも効きそうだ。(和)
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藤原書店03(5272)0301=1980円。