襲いかかるオートマタ 名探偵が謎に挑む

レビュー

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曲がった蝶番【新訳版】

『曲がった蝶番【新訳版】』

著者
ジョン・ディクスン・カー [著]/三角和代 [訳]
出版社
東京創元社
ISBN
9784488118341
発売日
2012/12/21
価格
1,034円(税込)

書籍情報:openBD

襲いかかるオートマタ 名探偵が謎に挑む

[レビュアー] 野崎歓(仏文学者・東京大学教授)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「人形」です

***

 ぬいぐるみが動き出すとしたら、それは童話の世界だ。しかし人形が動き出すなら、ぞくぞくと戦慄が走る。そこには怪奇とミステリの領域が広がるだろう。オートマタ(自動人形)が、幻想や神秘の物語と相性がいいのも無理からぬことだ。

 奇想天外な密室犯罪物で知られるジョン・ディクスン・カー。代表作『火刑法廷』など傑作を連発していた充実期の作品『曲がった蝶番(ちょうつがい)』(1938年)では、名探偵フェル博士が自動人形の謎に立ち向かう。

 その人形は准男爵の屋敷に伝わるもので、チャールズ2世の注文で愛人の一人に似せて作られたという等身大の逸品。「金髪の魔女」の異名をとるが、いまでは片目を失い老朽化した姿で屋根裏に押し込まれ、だれも動かすすべを知らない。

 その「重さ三百ポンド」の「鉄の塊」がフェル博士に襲いかかってきたり、夜、庭先を見ると暗闇に座っていたりする。屋敷の相続者をめぐる殺人事件に人形はどう関わっているのか?

 イギリスの田園を背景に、タイタニック沈没をめぐる因縁話や悪魔崇拝集会など、派手なアイデアがつるべ打ちにされる。「金髪の魔女」は満を持して登場する感じだ。解決篇ですっきりできるかどうかはともかく、カーならではの心ときめく大風呂敷を愉しめる。

「わし」を使うのがぴったりの巨体のフェル博士が何といっても頼もしく、懐かしい。どんな荒唐無稽な謎だって全部、面白がればよいのじゃぞとウインクを送ってくれるかのようだ。

新潮社 週刊新潮
2021年2月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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