人を動かすリーダーに欠かせないのは「ストーリー」を語れること――「ロジック」だけでは限界がある

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chandra-putra/unsplash

精緻なロジックで構築されたはずのプロジェクトが、往々にして失敗してしまうのはなぜなのでしょうか。さまざまな理由が考えられますが、『「論理的思考だけでは出せない答え」を導く あたらしい問題解決』の著者でAirbnb Japan執行役員の長田英知氏は、プロジェクトの目標を方向づける「ストーリー」の有無が、成否を左右する重要な要素だと考えています。

文:日本実業出版社WEB編集部

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共感を生み出すストーリー

ビジネス上の課題を解決するために、ロジックにもとづいたフレームワークを採用し、「できる」メンバーを揃えたとしても、満足な成果が得られるとは限りません。

コミュニケーションが足りずメンバーがプロジェクトの意義や目標を本音の部分で共有していなかったり、「上司の指示に仕方なく従っている」と感じていたりしては、その仕事は失敗するでしょう。

反対に、メンバーがプロジェクトの意義を腹落ちするほど納得し、やりがいや、自分が成長する期待を感じることができれば、それぞれの主体性が発揮され大きな成果につながるはずです。

そのために必要不可欠なのが「共感の力」です。そしてその共感を生み出すのが「ストーリー」だと、長田氏は考えているのです。

メンバーを動かすストーリー「3つの特徴」

「優れたストーリーは目標を達成するうえで、時にロジックよりも高い効果を発揮します」と言う長田氏。さらに「優れたストーリーには3つの特徴がある」とも述べています。

1つ目は「現在と対比する形で、異なる未来を予感させる」という特徴です。事例としてAirbnbのストーリー「Belong Anywhere(どこでも居場所がある)」をあげています。

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「どこかで繋がっている。それはいつも人の心を根本的にかき立てるもの。人はかつてその繋がりは当然にあるものと思っていました。街は村でした。お互いがお互いを知り、ホームとよべる場所がどこなのか知っていました。

新しいテクノロジーが人々を疎遠にし、信頼を損なわせる今、Airbnbコミュニティはそのテクノロジーで人々を繋げています。繋がりは万人が求めるひとつの切望です。どこにいたってありのままの自分でいながら歓迎されている、リスペクトされている、認められているという切望です。つまり、どこかで繋がっているという感覚です」(blog.atairbnb.com/belong-anywhere-jp/より)(本書191ページ)
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現代は、SNSの存在にもかかわらず他人との繋がりを感じにくい世の中です。Airbnbは自社のサービスを、「他人と繋がりたい、認められたいという欲求を満たすストーリー」として定義することによって、「見知らぬ人の家に泊まる」というハードルの高い行為を人間の自然な欲求にもとづくものとして表現しているのです。

2つ目の特徴は、「聞いた人の心に残り、その後の行動に影響を与えること」です。たとえばスティーブ・ジョブズによるAppleの新製品発表スピーチは、革新的な未来を予感させるものとして多くの人の心に残っています。

そして3つ目は、「アクションに一定の融通性があること」。言い換えると、画一的な行動を強いるストーリーではなく、人々が自主的に判断できる余地を残すことで自発的な取り組みを促す、ということです。長田氏は「クールビズ」と「省エネルック(1979年、第2次オイルショックをきっかけに提唱された半袖スーツスタイル)」の違いを例としてあげています。

ある程度自由なスタイルを選ぶことのできるクールビズは定着しましたが、省エネルックはほぼ無視されました。その理由は、提案された半袖スーツの見た目の悪さもさることながら、画一的なスタイルに人々が共感しなかったからではないでしょうか。

ビジネス上の課題を解決するときも、以上の3つのような特徴を持つ優れたストーリーを語ることができれば、メンバーの気持ちを1つの方向にまとめることができそうです。理屈だけでは人は動かない、ストーリーを使って感情に訴えよ、ということなのですね。

ストーリーを印象づける「ワンフレーズ」のつくり方

しかし、いくら優れたストーリーでもだらだらと語るだけでは伝わりません。伝わりやすくするには、ストーリーを象徴する「ワンフレーズ」をつくって聞き手に印象づけます。ワンフレーズのつくり方について、長田氏は次のように指摘しています。

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最初に挙げるのは、ストーリーの共感度を高めるためのコツです。「ストーリー」の共感を高めるには、いきなり「課題」を解決するための施策の具体的な中身について語るのではなく、皆の目線や温度感を合わせることが大切です。(195ページ)
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「ストーリー」を語りたい相手の「平準点」をイメージし、そこから課題を3つ前後のキーワードで表現することです。(196ページ)
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現状の問題点と解決すべき課題について、語り手と聞き手の認識が離れていては共感を得られません。解決のための具体策を述べる前に、まず「何が問題になっているのか」を、人々の普通の感情(平準点)と照らし合わせて平易に語ることが大事なのです。本書で紹介されているスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションで説明します。

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スティーブ・ジョブズは好きなときに好きな音楽を聴きたいという欲望を満たそうとするとき、現状が「平準点」を満たしていない理由として、「従来の音楽プレイヤーは1曲あたりのコストが高過ぎる」「携帯するには大き過ぎる」、そして「携帯の場合の持続時間が短過ぎる」という3つの課題を定義しています。(199ぺージ)
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ジョブズは聞き手と「目線や温度感を合わせる」ために、多くの人々が感じているであろう不便さを、3つのキーワードにまとめてわかりやすく語っています。さらに3つのキーワードを、たった1つの文章、ワンフレーズで象徴的に表現します。

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そのうえで、「Your entire music in your pocket.(あなたのすべての音楽をあなたのポケットに)」という強力なフレーズで、音楽業界そのものを変えるストーリーを作り出したのです。https://www.youtube.com/watch?v=haYw1FsXudE(同)
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ワンフレーズはなるべく平易な言葉で表現します。その話を聞いた誰もが、将来の自分の行動や変化を明確にイメージできることが理想的です。「DX」や「機械学習」など、流行りのバズワード、ビジネス用語を並べ立てて説明したつもりになるのは避けたほうが無難でしょう。

もちろん、皆がジョブズのようにはできませんし、その必要もありません。自分が納得して、腹落ちする言葉でワンフレーズを生み出し、身の丈に合った形でストーリーを語ることが、仲間の共感を得る第一歩になるのではないでしょうか。

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『あたらしい問題解決』は、変化が激しい時代の問題解決アプローチ法を3つのS──Sense,Segment,Storyの視点から解説しています。

ここでは「ストーリー」について概要を紹介しました。「ロジカルシンキング」や「仮説思考」といったフレームワークに限界を感じたら、「感覚」や「共感」を活かした本書のアプローチを試してみてください。

長田英知(ながた ひでとも)
Airbnb Japan株式会社 執行役員。1974年生まれ。東京大学法学部卒業後、日本生命を経て、埼玉県本庄市の市議会議員に全国最年少当選(当時)。その後、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社、PwCアドバイザリー合同会社等で戦略コンサルタントとして、スマートシティやIoT分野における政府・民間企業の戦略立案に携わる。2016年Airbnb Japan株式会社に入社、2017年より現職。そのほかの外部役職として、2018年よりグッドデザイン賞審査委員、2019年より京都芸術大学クロスデザイン学科の客員教授を務める。著書に『プロフェッショナル・ミーティング』『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『たいていのことは「100日」あれば、うまくいく。』(PHP研究所)がある。

日本実業出版社
2021年2月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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