救いだけでは描けないシェアハウスに住む女性たちの現実

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救いだけでは描けないシェアハウスに住む女性たちの現実

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

 思いやりや優しさは、性格というより、心に余裕のある人だけが持てる贅沢な感情なのではないか。深沢潮『足りないくらし』を読んで、そんなことを考えてしまった。

 小説の舞台は、家賃が安いことだけが取り柄のシェアハウス。ここに訳ありの女性たちが住んでいる。東京にいる恋人を当てにしてアメリカから帰国した樹(いつき)、小劇団で脇役ばかりやらされている風香、生活保護を受けながら仕事を探すさくら、劣悪な環境から逃げ出してきた技能実習生の中国人・王唯(ワンウェイ)、手放した息子と一緒に暮らす日を思い描く家政婦の好美、家族愛に恵まれなかった雛。彼女たちの生活苦の様相は、この国の貧しさと冷たさを容赦なく映し出す。

 みな自分のことで精いっぱい。励まし合いながら仲良く暮らしているわけではない。同族嫌悪的な気持ちをお互いに抱き、先の見えない毎日を必死で生きている……そんな女性たちの現実を描くために、著者は分かりやすい救いや甘さを物語にあえて加えなかった。その勇気を思う。

 仁藤夢乃『難民高校生』(ちくま文庫)は、十代女性のためのシェルターやシェアハウスを運営する著者が、ティーンエイジャーの頃を振り返った自伝エッセイ。居場所のない少女たちの「受け皿」だった渋谷で、虚ろな心を持て余しながら派手に遊んでいた高校時代を経て、「自分の声」を聞いてくれると感じた大人との出会いを契機に、彼女は行き場のない子たちを支える活動を始める。文庫版あとがきに書かれた〈助けてということは(中略)生きていくために必要な力〉という言葉が、力強く温かい。

 しかし、日本には自己責任という呪縛が蔓延している。NHKクローズアップ現代取材班による『助けてと言えない』(文春文庫)は「自分が悪い」から「自分で解決するしかない」と考える三十代の路上生活者らへの取材を書籍化した一冊。〈彼らが助けてと言わないのではなくて、彼らに助けてと言わせない社会があるんじゃない?〉という、ある支援者の言葉に頷かずにはいられない。

新潮社 週刊新潮
2021年3月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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