メディアで話題沸騰! 「深夜薬局」を営む薬剤師、中沢宏昭氏が語る「深夜薬局の意義、そしてコロナ禍の歌舞伎町」とは?

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


恋人の愚痴も壮絶なカミングアウトも、薬剤師の中沢さんは、なんだって「聴く」

日本一の歓楽街、歌舞伎町――。
この街に、夜にだけ店を開ける薬局がある。人呼んで「深夜薬局」こと、「ニュクス薬局」。
「ニュクス」とは、ギリシャ神話に登場する「夜の女神」の名だ。
朝日新聞やNHKのドキュメント番組などメディアで度々取り上げられてきたニュクス薬局の話が、この度、『深夜薬局 歌舞伎町26時、いつもの薬剤師がここにいます』(小学館集英社プロダクション)として上梓された。
そこで出版を記念して、改めて「深夜薬局」のできるまでとその意義、および書籍には書かれていない2度目の緊急事態宣言発出後の話などを、ニュクス薬局を営む中沢宏昭氏にお伺いした。

――(2021年2月某日)2回目の緊急事態宣言が出されましたが、影響はありますか?

中沢:やはり人通りは少ないですよ。ただ、1回目の時よりは影響が少ないかもしれないですね。

――メンタル系の相談が増えたりとかは?

中沢:いや、特別増えたってことはないですね。まあ、場所柄、それ系の相談は元々多いんですけどね。
あ、そういえばPCR検査キットは入れましたよ!

――緊急事態宣言が出されても、深夜に薬局を訪れる人はいるし、店を開けていれば「助かった」なんて言ってくれる人もいる、という感じですかね?

中沢:そうですね。こんな時期でも処方箋持って来られる方はゼロではないので。まあ、役には立っているのかな? っていう感じはしますよね。


カウンターには背もたれのある椅子

――そんな不夜城になくてはならないニュクス薬局のことが、『深夜薬局』という本にまとめられました。また、テレビや新聞などメディアからの取材も多いとお聞きします。どうしてそんなにたくさん、いろいろなメディアに取り上げられるのでしょうか?

中沢:う~ん、どうしてでしょうね? まあ、一言で言えば「変わっている」から、じゃないですか? 歌舞伎町で夜中だけやっている薬局なんて、どう考えても普通じゃないですもんね(笑)。

――そんな「普通じゃない」深夜薬局をはじめた経緯について、もう一度簡単に聞かせてもらえますか? 子どもの頃から、医療系の仕事には興味があった?

中沢:そうですね。子どもの頃から理科とか化学とかは得意だったので、医療とか薬とかに興味がなかったわけではないです。それに自分たちは就職氷河期世代だったので、若い頃から「手に職」をつけたい、という気持ちはありました。
あと「人と接するのが好き」というのもありましたね。

――そして、大学を卒業して、まずはチェーンの薬局に勤められ、その後、独立するわけですね。なにか特別な理由とか?

中沢: いやまあ、最初から漠然と、一生会社勤めを続ける気はない、という気持ちがありましたから。

――しかし、またなぜ、普通の薬局ではなく「深夜薬局」に?

中沢:「深夜に開けている薬局が当時なかった」というのが第一の理由です。
あと、「どうせ開くなら、みんなが気軽に相談してくれるような薬局にしたいな」とは思いました。
今、たいていの場合、「薬局=薬をもらうためだけの場」になっちゃっていると思います。
「もっと気軽に相談に乗れる『かかりつけ薬局』のような存在でありたい」という想いは、私だけじゃなくて、多くの薬剤師も持っているようなんですけど……。
ただ、実際には日々の作業に追われてなかなか対応できない。そのうちにそういう志も忘れてしまう。

――「深夜薬局」ならそれができると

中沢:まあ、「普通じゃない」ですからね。「ただ薬をもらうためだけの場」だとは誰も思わないじゃないですか。

――立地も影響しますよね。

中沢:さっきも言いましたが、やっぱり、夜の仕事をしている人の中には、メンタルに不安を抱えている人って多いですからね。「薬をもらう」のが目的じゃなくて「ただ話をしに来る」という人も結構いますよ。


滋養強壮剤のボトルキープ

――とはいえ、そういう人だって、どの薬局でも薬剤師さんと話し込んだりするわけではないと思うんですよね。

中沢:ここだって、そうかもしれませんよ、最初は。だっていきなり初対面の人にすべてを打ち明ける人なんて、そうはいないじゃないですか。ものすごく暗い顔して入ってきた人に「どうしたんですか?」なんて聞いても、いきなり理由を話し出す人なんて、まずいないですよね。
だから、そういう人には、少しずつ本題とは違うところから話を振っていく。そういうことを続けていくうちに、少しずつうちとけてきて、いろいろと話すようになってくる、そんな感じですね。

――それが本にも出てくる「遠くからボールを投げる」というやつですね。

中沢:はい。あえて核心から遠いところから話しはじめる、というやり方ですね。
ただ、あくまでそれは、相手が心の底では話したそうにしている、と思えた時だけですし、相手が話したくなさそうだったら、もちろん、無理強いはしません。
基本的に自分は聞き役なので。

――少しずつ「気軽に相談できるかかりつけ薬局」の形が出来上がってきた?

中沢:う~ん、だといいんですけどね。まあ、以前「居場所をつくってくれてありがとう」という手紙をくれた子の話はしたと思うんですけど、そういう人がいるっていうことは、そういう「相談できる場」になってきたのかな、とは思いますね。

――自分的にも満足いく形になってきた?

中沢:そうですね。少し前に経営者の友だちが「経営って、お金だけだとモチベーションが続かない」って言っていました。そういう意味では、モチベーションが続く、というか、やりがいのある仕事であることは間違いないですね。

――そういえば、昨夏、お店で倒れられたとか?

中沢:いやあ、自分ではまったく記憶がないんですけど。一人で店にいる時に、ふらっと倒れてしまったようで……。気づいたら病院でした。

――別に何かの事件に巻き込まれたとかではなく?

中沢:ははは、それはないですね。普通に警察の人から「働きすぎですよ」って言われちゃいました。


――倒れた時に頭を打たれたと聞きましたが、お仕事に影響とかなかったですか?

中沢:頭を少し縫ったようなので「ちょっと痛ぇな」くらいは思いましたけどね。
倒れた翌日にはもう普通に働いてましたから。

――そんなだから働きすぎになっちゃうんですよ!(笑)
でも、心配してくれたお客様もいるんじゃないですか?

中沢:あぁ、コーヒーとおやつ持ってきてくれた子とかもいましたね。

――これからも体に気をつけてがんばってください。今日はどうもありがとうございました。

(インタビューを終えて)
緊急事態宣言が出されて人通りが絶えた歌舞伎町。しかし、いつもと変わらずに営業を続けた中沢さん。そこは暗闇のなかに立つ灯台のような存在だったかもしれない。そんな彼のもとには、病気のことはもちろん、「お客さんの子を妊娠してしまった」「彼のために風俗で働くか迷っている」などいろいろな悩みを抱えた人が集ってくる。
そんな人たちのために、中沢さんは、きっと今夜も、いつもと同じようにたった一人でカウンターに立っているだろう。

福田智弘
1965年埼玉県生まれ。東京都立大学卒。歴史、文学関連を中心に執筆活動を行っている。おもな著書に『ビジネスに使える「文学の言葉」』(ダイヤモンド社)、『世界が驚いたニッポンの芸術 浮世絵の謎』(実業之日本社)、『よくわかる! 江戸時代の暮らし』(辰巳出版)などがある。

福田智弘

小学館集英社プロダクション
2021年3月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館集英社プロダクション

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

株式会社小学館集英社プロダクションのご案内

「ShoPro Books」を掲げ、マーベルやDCなどの海外コミックスの翻訳・編集を1994年から手がけています。また、児童向けナゾトキ学習本や、歴史に埋もれた事実を掘り起こすノンフィクション、専門医による実用健康書、小学館の通信教育と連動した漢字ドリルなど、多岐にわたるジャンルで一般書籍の出版も行っています。