学校、行かなきゃいけないの? これからの不登校ガイド 雨宮処凛(あまみや・かりん)著
[レビュアー] 貴戸理恵(関西学院大准教授)
◆答え探す人の道しるべ
「学校、行かなきゃいけないの?」。子どもに問われたら、何と答えるだろうか。それは大人の側の姿勢が問われる問いである。
この本には、さまざまに応答する大人が登場する。「学校に行かなくても問題はない」と、学校以外の選択肢を提示するフリースクール創立者。「校則、宿題、チャイム、全部なくした学校ならどう?」と提案する破天荒な元校長。「貧困で学校に行きにくくても進学機会が奪われないように」と生活保護世帯の子どもらに無料の学習支援や食事を提供するNPO理事。「学校は行けるなら行った方がいい。でも別に不登校が悪ではない」と実体験から答える芸人。「学校の管理モデルは刑務所と軍隊だから、しんどいのは当たり前」という精神科医。
「不登校」はこれまで、ある枠組みのなかにすっきり収まるかたちで語られることが多く、枠組みから漏れる側面は見えなくなりがちだった。たとえば、「不登校を多様な選択肢の一つとして認める」という視点からは、「フリースクールなど学校外のオルタナティブな学び育ちの場の制度化」が解決に見えて、不平等や貧困の問題は脇へ置かれる。他方で不平等や貧困を問題化する視点からは、「公教育の充実」が解決に見えて、「学校自体を問い直す」ことはなされにくい。そんな傾向があった。
しかしこの本は、その両方に目配りする。著者は書く。「不登校でも、それがその後の人生において不利にならず、社会に出ている人は多くいるという事実に勇気づけられる。その一方で気になるのは、この二十年ほど深刻化している格差と貧困の問題だ」。それは、学校でいじめに遭って生きづらさを抱え、その後不安定労働や貧困の現場を取材してきた著者のキャリアが可能にした固有の視点だろう。その著者が、みずからの中学時代を振り返って書く「今、私はこの時期に不登校をしなかったことを悔いている」という言葉は重い。
冒頭の問いに「正解」はない。自分なりの答えを探そうとする人の、道しるべとなる一冊だ。
(河出書房新社・1540円)
1975年生まれ。作家・活動家。著書『右翼と左翼はどうちがう?』など多数。
◆もう1冊
工藤吉生(よしお)著『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)