人に頼ることは迷惑なのか? 「助けて」と言えるために知っておきたいこと

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吉田 穂波 氏(医師・医学博士・公衆衛生修士)

 コロナ禍で、マスク生活、外出自粛、在宅勤務と、生活様式が大きく変わったこ とにより、多くの方が今もなお、目に見えない大きなストレスを抱えているのはでないでしょうか。

 気持ちが落ち込む、いつもはできることができない、体調が悪いなどの不調や心の不安を感じながらも、「大変なのはみんな一緒だから」「自分より大変な人がいるから……」と、一人でつらさを抱え込んでいませんか?

 そんな今だからこそ、ふだんから身につけたいのが「受援力」です。

 受援力とは、「助けを受け入れ、人に頼ることができる力」のこと。

 この言葉はもともと、2010年に内閣府が防災ボランティアを受け入れて地域防災力を高めてもらうためにつくったパンフレット(「地域の『受援力』を高めるために」)に用いられた言葉で、東日本大震災を機に少しずつ知られるようになりました。

 医師・医学博士・公衆衛生修士である吉田穂波さんは、2011年の東日本大震災で産婦人科医として妊産婦や新生児の救護に携わった際、「受援力」の大切さを痛感したそうです。

 助けを必要としているのに、「助けて」と言えない、人に頼れない人は多くいます。

 受援力の大切さ、また、受援力を発揮することのメリットについて、吉田穂波さんの著書である『「つらいのに頼れない」が消える本――受援力を身につける』(あさ出版)から、一部抜粋してご紹介します。

人に頼ることは相手に負担を強いることではない

 突然ですが、今まであなたが誰かに力を貸してあげたときのことを思い出してみてください。

 どんなささいなことでも構いません。人の力になれたときのエピソードについて、できるだけ詳しく思い浮かべてみましょう。

 そのうえで、次の二つの質問に答えてみてください。

(1)人を助けてあげたとき、あなたはどんな気持ちでしたか?

(2)相手のことをどう思いましたか?

 この質問をすると多くの方が、「頼ってもらえてうれしかった」「人の役に立てたことで誇らしい気持ちになった」「力になれてよかった」など、ポジティブな気持ちになったと話します。また、相手のことを迷惑に思うどころか、弱みを見せてくれたことで、それまでよりも距離を近く感じたのではないでしょうか。

 このことからもわかるように、人に頼ることは、決して相手に負担を強いることではありません。

 人助けをしたという喜びを引き出し、相手の気持ちをポジティブにさせることもできるのです。

 また、人に助けてもらう経験は、私たちにいろいろなことを教えてくれます。

 助けてもらうことで、自分の未熟さを知り、謙虚な気持ちになります。

 自分の弱さを知り、助けてくれた人への感謝の念が湧き起こります。

 助けてもらうことで視点が変わり、次のようなことに気付きます。

・困っている人の存在

・困っている人の不安な気持ち

・困っている人がどうしてほしいか

・困っている人がどんな形で声をかけてほしいか

 助けてもらうことで、助け上手になれるのです。

 今まで私たちは、幼い頃から当たり前のように、自分でできないことを手伝ってもらい、自分一人でできるようになったら、次は年下や後輩のサポートをしてきました。

 人に助けてもらうことは、自分一人では分からなかった方法を学ぶことです。

 まず自分が助けられて成長し、それから同じように困っている人に手を貸す――。

 助けてもらうことが自分のためだけでなく、皆の進歩につながると思えば、誰かの力を借りることに対して、ポジティブな意識が生まれませんか?

頼ること=相手への信頼と承認と尊敬の証

 人に頼ることは、頼られる側にもたくさんのプラス面があります。

 頼られる側のメリットを三つ、ご紹介しましょう。

(1)自己肯定感がアップする

 人は、太古の昔からコミュニティーをつくって、互いに協力し合い、厳しい自然と戦いながら広大な土地を耕し、衣食住をはじめとした役割を分担してコミュニティーに貢献し、それぞれの生活を支え合いながら生きてきました。

 人は決して、一人では生きることができません。

 そのため人には、「誰かの役に立つ→感謝される→自分に自信を持つ/自分を肯定できる→幸せを感じる」という本能が備わっているのです。

 誤解を恐れずに言うなら、人に頼ることは「人の役に立てた」という喜びを引き出すことと言ってもいいでしょう。

 おいしいものを食べたら幸せを感じるように、人から感謝されることで幸せを感じ、それが心の栄養となるのです。

 皆さんも人の力になれたとき、心が温かくなり、うれしい気持ちになったことがあるのではないでしょうか。

 誰かを助けること、頼られることは、幸せを感じる源泉。

「自分はここにいてもいいんだ」と自分を肯定でき、人とのつながりを感じられるからです。

(2)承認欲求が満たされる

 人は誰かに助けてほしいと思うとき、自分が信頼していない人にはお願いしません。

 次のシーンを想像してみましょう。

・あなたが重要な仕事を同僚や部下に頼むとき

・自分の子どもを預けるとき

・知らない土地で道を尋ねるとき

 このようなとき、あなたはどのような人に頼むでしょうか?

 きっと、重要な仕事は優秀で信頼できる仲間に、子どもは一番安心して預けられる人に、道を聞くときは親切に教えてくれそうな人を選ぶのではないでしょうか。

 その頼みごとが自分にとって重要であればあるほど、信頼できない人にはお願いしません。

 つまり、誰かに頼るということは「あなただからこそ任せられる」という信頼のメッセージでもあります。

 あなたも、誰かに頼られたときは自分の存在を承認されたような気がするのではないでしょうか。

 自分が信頼できる人間として選ばれたと感じ承認欲求が満たされる。そのことで生きるエネルギーが湧いてくるのです。


(3)心身の健康状態が向上する

 米国の研究では、人助けや利他的なことをすると自己効力感[self efficacy]が高まり、心理状態が改善され、健康長寿につながるということがわかっています。

 たとえば、ピッツバーグ大学における脳神経と行動心理学に関する調査では、自分がサポートを受けるよりも他人をサポートするほうが、よりストレスが軽減したという結果がでました。

 人を助けることで得られる「ご褒美」のような幸福感は、難しい数学の問題を解くのを手伝ってあげるような事柄から、ビジネス、教育、社会的なサポートに至るまで幅広く見られます。

 誰かの役に立つことで、人は自分が認められていると感じ、心身の健康状態が向上するのです。

 さらに、ミネソタ大学における研究では、他の人を助けることで自己肯定感が向上し、コミュニティーにおける絆が強まることが明らかになっていますし、人は自分の仕事が人助けに関わっているときほど、自分がしている仕事にやりがいや意義を見出せる、という調査結果もあります。

 「他人を助けることが、実は自分自身を助けることになっている」という概念は、古今東西さまざまな書物の中でも見られるテーマであり、アメリカの作家/ラルフ・ワルド・エマーソンもこんな言葉を残しています。

“It is one of the most beautiful compensations of life that no man can sincerely try to help another without helping himself.”

(誰であれ他人を心の底から助けようとすれば、必ず自分自身をも助けることになります。それは人生の最も美しい報酬の一つなのです)

 これらの科学的・文化的な根拠を見ても、あなたが誰かに助けを求めることは決して相手の時間やエネルギーを一方的に搾取することではないのです。

 人に頼るとき、「相手の迷惑になるのではないか」と、つい不安を感じてしまいがちですが、頼ることは実は「頼られる相手にとってもメリットがあること」なのです。

 いかがでしたでしょうか。

 頼ることは決して相手に負担を強いることではありません。

 皆が受援力を身につけて周囲の人と助け合えば、苦しいことや困難なことも乗り越えられるでしょう。

 コロナ禍の今、つらい思いをしている人はぜひ受援力を発揮して、身近な人に助けを求めてみてください。

吉田穂波(よしだ・ほなみ)
医師・医学博士・公衆衛生修士
三重大学医学部卒業。聖路加国際病院で臨床研修ののち、2004年、名古屋大学大学院医学系研究科で博士号を取得。その後、ドイツとイギリスで産婦人科及び総合診療の分野で臨床研修を行い、帰国後は産婦人科医療と総合診療の視点をあわせ持つ医師として女性総合外来の創設期に参画した。2008年、ハーバード公衆衛生大学院に留学し公衆衛生修士号を取得、同大学院のリサーチフェローとして少子化対策に関する政策研究に取り組む。2011年の東日本大震災では産婦人科医として妊産婦や新生児の救護に携わる。このとき、「受援力」の大切さを痛感し、多くの人に役立ててもらいたいとの思いから、無料でダウンロードできるリーフレット『受援力ノススメ』を作成。国の検討会や多数の講演に呼ばれるほか自治体研修等で「受援力」を学ぶ場作りに取り組む。現在、神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科教授。4女2男の母。

吉田穂波(医師・医学博士・公衆衛生修士)

あさ出版
2021年3月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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