【産経の本】『海軍空技廠 太平洋戦争を支えた頭脳集団』碇義朗著

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■知られざる日本航空史

 タイトルの「海軍空技廠(しょう)」とは「海軍航空技術廠」の通称。昭和7年に開設され、20年の太平洋戦争敗戦まで存在した日本最大の航空研究機関である。

 本書は機体・エンジンの試作、審査、改造、整備、民間企業の指導・監督、新兵器の開発をつかさどり、数々の新鋭機を生み出した空技廠の13年間の航跡をたどる。しかし、700ページを超える大著が克明に描くのは、単なる航空メカニズムの技術発達史ではない。

 大艦巨砲主義全盛の海軍にあって航空戦力の未来を確信した少数の高官、外国機の模倣を脱し独自の技術を生んだ若手技術者、命懸けの飛行に挑んだテストパイロット、そして彼らを送り出した女子事務員まで、多くの肉声で紡がれた知られざる日本航空史なのだ。

 単行本が刊行されたのは終戦40周年の昭和60年。著者は当時まだ存命だった空技廠関係者に徹底したインタビューを行い、膨大な資料を読み込んで、この大冊を書きあげた。空技廠で培われた人材と技術は終戦後、鉄道、自動車、エレクトロニクスなど多方面で役立っている。

 本書は時代の先端で必死に闘い続けた人々の感動の物語である。(光人社NF文庫・1180円+税)

産経新聞
2021年3月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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