戦略的な連帯を目指す現代の女性の“共闘”

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覚醒するシスターフッド

『覚醒するシスターフッド』

著者
サラ・カリー [著]/柚木麻子 [著]/ヘレン・オイェイェミ [著]/藤野可織 [著]/文珍 [著]/大前粟生 [著]/こだま [著]/キム・ソンジュン [著]/桐野夏生 [著]/マーガレット・アトウッド [訳]
出版社
河出書房新社
ISBN
9784309029436
発売日
2021/02/25
価格
2,420円(税込)

戦略的な連帯を目指す現代の女性の“共闘”

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

 シスターフッドとは、女性同士の連帯を指す。もともとは一九六〇年代後半のラディカル・フェミニズムの文脈から出てきた言葉だが、この『覚醒するシスターフッド』という短編集が生まれるきっかけになった「文藝」二〇二〇年秋季号の特集によれば、現代のシスターフッドはシンパシー(同情、共感)よりもエンパシー(他者の心情や考えを理解するための想像力)に重点を置いた、戦略的な連帯を目指しているらしい。本書には雑誌掲載の八編に二編を加えた全十編を収録。さまざまな女性の共闘が描かれている。

 コンセプトを最もわかりやすく表しているのは、柚木麻子の「パティオ8」だろう。コロナ禍の日本、七世帯の住居が一つの中庭を共有する平家型マンションが舞台だ。女たちは中庭をうまく使って住人同士で協力体制を作り、仕事とワンオペ育児や家事を両立させていた。しかし大事な中庭が新参者の男の身勝手な要求によって奪われてしまう。女たちは男がリモートワークで進めている取引の詳細を知り、ある計画を実行する。家電の知識、英語、料理、歌……それぞれの特技を活かして敵を追い詰めるくだりが痛快だ。

 中国の作家・文珍の「星空と海を隔てて」(濱田麻矢・訳)もいい。主人公の孫寧は広告会社の社員。出張先でセクハラ―中国語で〈蜜兎(ミートウー)〉―をめぐるトラブルを抱え、苦悩しながら大学院時代に暮らしていたマカオへ向かう。その途中、いかにも土地勘のない若い女の子と出会う。世間知らずに見える女の子が、思いがけない言葉で孫寧を救うのだ。

 登場人物の痛みと怒りが鮮烈なのは、アメリカのサラ・カリーの「リッキーたち」(岸本佐知子・訳)。レイプされた四人の大学生が、被害者として生きることを拒否して自分を新しく作りなおす物語だ。反逆の方法は名前を〈リッキー〉に変えること。心の握り拳につけるグローブとして、次世代にも伝えたい一編だ。

新潮社 週刊新潮
2021年4月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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