洞察力に長けたクールなイケメンと、好奇心旺盛で明るい行動派の凸凹高校生コンビによる本格日常ミステリ

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

チェス喫茶フィアンケットの迷局集

『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』

著者
中村あき [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575524543
発売日
2021/03/11
価格
748円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

第三回双葉文庫ルーキー大賞受賞作が刊行された。チェス喫茶の臨時マスターとアルバイト。高校生コンビが、身の回りで続発する謎を見事に解き明かす。

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 高校生のもどかしい関係にキュンキュンしながら、本格ミステリを楽しむ一冊が誕生しました! 双葉文庫ルーキー大賞第三回受賞作は「洞察力に長けたクールなイケメン」と「好奇心旺盛で明るい行動派」の凸凹高校生コンビが不可解な謎に挑む本格日常ミステリ。本書の読みどころについて書評家の細谷正充さんが解説します。

 ***

 双葉文庫ルーキー大賞とは何か。WEBサイトから随時応募可能。そして選ぶのは編集者であり、面白ければ即決で双葉文庫から刊行されるという、実に今時の文学賞なのだ。また応募者はプロアマ問わず、第一回の大橋崇行、第二回の斎藤千輪と、すでに何冊も小説を刊行しているプロ作家が選ばれている。そして本書で、第三回の大賞受賞者となった中村あきも、二〇一三年に『ロジック・ロック・フェスティバル~Logic Lock Festival~探偵殺しのパラドックス』で、既にデビュー済みのプロ作家だ。今まで、ひと癖ある本格ミステリーを発表してきたが、本書は日常の謎を扱っている。新境地といっていいだろう。

 高校生になった小坂柚子子(ゆずこ)は、チェス喫茶『フィアンケット』を訪ねた。幼い頃に盗んでしまった、チェスの駒を返し、謝るためである。だが『フィアンケット』にいたのは、高校で隣の席の世野終だった。病気で入院中の祖父に代わり、臨時マスターをしている終は、柚子子を無料アルバイトとしてこき使う。

 というのが第一局「ビショップは密室の外」の始まりの部分だ。これで『フィアンケット』で働くようになった柚子子は、ある日、店で指されていたチェスの盤面図が、あり得ないものであることに気づく。この謎をあっさりと解く終は、まさに名探偵といっていい。

 続く第二局「アートクラブの不穏な噂が」は、三年生の美術部員の、突然の退部の謎が、第三局「赤ちゃん幽霊に子守唄を」は、学校に流れる赤ちゃんの幽霊の噂に柚子子がかかわり、終が真相を明らかにする。この中では、現実の社会問題が露わになる第三局が優れている。日常の謎といっても、けして内容は甘くないのだ。

 そして第四局「席替えで好きな人の隣になる方法」は、柚子子が親友の月待繭に頼まれた、クラスの席替えの不正(理由はタイトルから察してほしい)が、予想外の方向に転がっていき、第五局「チェックメイトにはほど遠い」の、柚子子と学校の将棋部部長とのチェス勝負に繋がっていく。なるほど、繭が将棋部という設定は、このための布石であったのか。しかも、チェスというゲームの特性を生かした柚子子の戦いが熱い。ここはチェス小説といっていいだろう。

 なお物語の締めくくりには、画竜点睛なサプライズが置かれている。最後まで作者の腕は冴えまくり、鮮やかなチェックメイトを決めてくれたのだ。

小説推理
2021年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク