『ヨーロッパ冷戦史』
書籍情報:openBD
米中冷戦始めますか?
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
桜が散れば初夏はすぐそこで、馴染みの食堂の店先にはもう筆書きで「冷やし中華 始めました」。その冷と中の二文字がデカいうえに朱の丸で囲まれてるもんだから、チラ見して頭をよぎったのよ、米中冷戦が。
中国の脅威を叫ぶ声がデカすぎるミギも金臭ければ、それを言われて話を逸らすヒダリも黴臭い今日このごろながら、30年前まで続いてた元祖冷戦を知る身としちゃ新型冷戦を正しく恐れておきたい。そう思ってあれこれ読み漁っているゆえの見間違いなんでしょうが、そういう読書のなかで遭遇した出物があって、それが『ヨーロッパ冷戦史』。
東のソ連、西の米国に挟まれて分断された欧州の半世紀が500頁にわたって綴られるのにつきあう。そういう体験が苦行じゃないのは、これが新書デビューの外交史研究者・山本健が、新しくて幅広い研究成果をベースに、淡々とバランスよく説いてくれるから。東西両陣営の濃くて重くて長くて複雑な本当の話が、抵抗(少)なく頭に入ってくると、欧州冷戦が背景だった小説や映画の傑作群が思い出されもして、芳醇な読書体験ができる。
が、現在ただいまの日本が東の米国、西の中国に挟まれてることを意識しつつ読めば、欧州の冷戦は過去の対岸の火事じゃないわと身につまされる教科書になるのも、この本。冷戦が始まるにあたって大きいのは指導者たちの思い込みや読み違いだということがよぉくわかれば、冷たくなるのは中華麺じゃなく背筋です。