『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』
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【聞きたい。】佐藤直樹さん 『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』
[文] 黒沢綾子
■「つながり」探る面白さ
日本の芸術系の最高学府、東京芸術大学では美術史をどのように学ぶのか。自らの授業「西洋美術史概説」のエッセンスを、全15回の講義形式でまとめた一冊。近年、ビジネスパーソンの教養として美術の入門書が続々出版されているが、それでは物足りないという層にヒット。発売1カ月半で既に3刷と、ハイペースで版を重ねている。
古代から現代までを順に追うのかと思いきや、「通史を頭に入れたところで、絵を見られるようにはならない。一つ一つの作品を丁寧に鑑賞してゆく。その積み重ねが、全体を見通す力になる」と語る。
「個々の絵に対する僕なりの具体的なアプローチを示すことで、実践的に学べる内容になっているはずです」
たとえば、北方ルネサンスの画家、ファン・エイク兄弟の傑作「ヘント祭壇画」に隠された画期的な発明とは-。バロック美術を切り開いた天才カラヴァッジョの「聖マタイのお召し」で、マタイはどの人物なのか-。ちょっとマニアックな謎を追ううちに、歴史的なつながりや、同時代の他国の画家の影響などが見えてくるから面白い。
美術史上の大きな芸術潮流-ルネサンスや20世紀のモダニズムなども、突如発生したわけではない。その前段階において先駆的な試みをした芸術家にあえて注目し、歴史の流れを意識させる。「つながりこそ美術史の肝なんです」
イタリア・ルネサンスの巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチと、ドイツ・ルネサンスの巨匠、アルブレヒト・デューラーの意外なつながりも紹介。ともに15~16世紀を生き、直接的交流はなかったとみられるが、2人に共通する終末のビジョンを提示し、同時代性や情報流出の可能性などを状況証拠で探る。「美術史って探偵っぽい面白さがあるんですよ」。なるほど睡魔も寄せ付けない、スリリングな授業だ。(世界文化社・1760円)
黒沢綾子
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【プロフィル】佐藤直樹
さとう・なおき 昭和40年生まれ。東京芸大大学院美術研究科後期博士課程中退。ベルリン自由大学留学、国立西洋美術館勤務を経て、平成22年から東京芸大准教授。専門はドイツおよび北欧美術史。