【児童書】『ブタとともに』山地としてる著 命に向き合う「お父さん」
[レビュアー] 黒沢綾子
《ブタは人に食べられるために生まれてきてくれよる。やからこそ、絶対に粗末に扱ったらいかん》
愛情たっぷりに常時1200頭のブタを育てていた、今は亡き「お父さん」の言葉だ。本書は、香川県に平成19年まで実在した養豚場の光景を写した写真絵本。
そのブタたちは私たちの口に入るために生まれ、穏やかな瀬戸内海に面した養豚場で半年を過ごした後、市場に送られる。出会いと別れがくり返される毎日。ともに過ごす時間は短いけれど、ブタたちは「お父さん」と仲良しだ。のんびりと寄り添う姿から、心が通い合っているのがわかる。
著者は同県の丸亀市役所に長年勤務し、農林水産行政に携わる中で養豚家の男性と出会い、撮影を続けてきたという。
スーパーに並ぶ豚肉と、愛らしいブタたちを結び付けるのはちょっと切ない。でも、食べるとは、命をいただくとはそういうことなのだ。小さな命に日々向き合ってきた養豚家の言葉は重い。(青幻舎・1980円)
黒沢綾子