絵本のテーマソングをつくる音楽ユニット「オタクノマド」の3人に話を聞きました

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絵本のテーマソングをつくる音楽ユニット「オタクノマド」の3人に話を聞きました


左からオタクノマドの川口さん、Mitsuyoさん、みちるさん

子どもの頃、アニメの本編の前にテーマソングが流れる時間が好きでした。これから物語がはじまるぞ、というワクワク感。本編とは少し違う表情を見せてくれるキャラクターたち。本編の物語とつながっているようで別世界にも感じられる不思議な数分間に、いつも魅了されていました。

そんな魔法の時間を人に与えてくれる“テーマソング(主題歌)”って、どんなふうにつくられているのだろう?

今回は、『おもちぽん』『わにくんのだめだめきゅうり』『つまさきもじもじ』など、人気絵本のテーマソングを次々と世に送り出している音楽ユニット「オタクノマド」の3人に話を聞きました。

テーマソングは、観光地のとなりにべつの観光地をつくるようなもの

――物語のテーマソングって不思議な存在ですよね。本編の一部のようでもあり、別世界のようでもあり。

みちる:テーマソングは、物語の世界の上に重ねてつくるものだと思っている人が多いと思うのですが、実際には少しズレた場所にあるべつの世界だと思うんです。物語の本編が観光地だとしたら、テーマソングは、そのとなりにできたもうひとつの観光地のようなものだと思います。
絵本と音楽、それぞれ表現しているものがある。作詞を担当する僕の役割は、2つの観光地をむすぶつり橋のようなものだと思っています。


作詞担当のみちるさん

――このメンバーで絵本のテーマソングをつくろう、ということになったきっかけは?

みちる:僕は出版社の社長をやっていて、Mitsuyoさんは同じ会社で編集者として働いています。Mitsuyoさんは歌手で、僕はもともと彼女の歌のファンだったんです。彼女の旦那さんの川口さんはドラマーで、彼らのセッション動画もよく観ていました。いいな、自分も参加したいな、とずっと思っていたんです。

歌う編集者、詞を書く発行人

Mitsuyo:3人で初めて会ったのは、詩人でありシンガーソングライターの覚和歌子さんのライブに行ったときでした。わたしはそれまで、ずっとみちるさんと川口のことを似てるな~と思っていて、それぞれにお互いのことを話していたんですけど、そのとき初めて紹介して。

みちる:ライブのあとに一緒に喫茶店に入ったら、注文のとき、僕と川口さんが同じフレンチトーストを指さしたんです。それで、もう言葉はいらない、安心できるお友達だと思いました。

Mitsuyo:わたしのライブの楽曲集をつくるときに、みちるさんに詞をお願いしたのが、この3人での最初の曲づくりでした。それから、みちるさんの詩に曲をつけたりしました。絵本の歌をつくることになったのは、そのあとですね。


歌手であり、絵本の編集者でもあるMitsuyoさん

――それぞれができることを持ち寄って、自然と生まれたプロジェクトなのですね。

みちる:あらためて考えると、編集者が自分で編集した絵本の歌を自分で歌っちゃってるってすごいですよね。そして、その絵本の発行人が歌詞を書いちゃってる。好き勝手やっていますよね。

絵本を読むと、頭の中に、音の色味・風景・かたちが浮かんでくる

――3人の役割分担があると思うのですが、曲づくりはどのように進めているのですか?

みちる:基本的に、曲を先につくって歌詞をあとからつける「曲先(きょくせん)」でつくっています。

――作曲担当の川口さんは、絵本を読むとメロディーが浮かんでくると聞きました。それは本当ですか?

川口:絵本を読むと、頭の中に、音の色味というか、風景、かたち、そんなイメージがぼやっと出てくるんです。それをメロディーとして具現化するために、ボイスメモで録音して、パソコンに打ち込んだりピアノで弾いてみたり。そんな感じで曲をつくっています。

Mitsuyo:いつも、絵本の新作ができあがるたびに家に持って帰るのですが、それを読んだ川口から「曲ができちゃったんだけど、どうする?」と聞かれたりします(笑)


作曲家の川口さん。プロのドラマーとして演奏活動もしています

破天荒な音をつくりやがって、と怒りたくなるときもあります

――川口さんのつくる曲は、1番、2番と同じメロディーを繰り返す一般的な歌とは違い、最後まで予測できない自由な旋律が多いですよね。

川口:曲のなかでストーリーが進んでいるのにもう一度Aメロ(1番)に戻るっておかしいだろう、と思ってしまうんです。だったらいくつかのメロディーを組み合わせて組曲にしてしまおうと。

みちる:でも、怒りたくなるときもあるんですよ。こんなに自由で破天荒な音をつくりやがって、って(笑) 音数が揃わないし、ワンコーラスとツーコーラスが全然違うじゃん、って。

「なにになるのマカロニさん」テーマソング
https://youtu.be/-sfpK_70G0M

――歌詞はどのようにつくるのですか?

みちる:曲ができると、その曲と絵本を常に持ち歩いて、音をイヤホンで繰り返し聴きながら歌詞を考えます。譜面やコードもないから、自分で拍数を数えながら。

――音が決まっていると、詩を書くのとはつくり方が違いそうですね。

みちる:歌詞は、音の数が決まっていて、さらに元の絵本のストーリーもあるから、つくる上での規制が多いですね。説明的になってしまうと歌としておもしろくないから、絵本の世界をどう膨らませるか。毎回、頭を悩ませながらつくっています。

レコーディングで、盆踊りのように踊ってしまいました

――Mitsuyoさんは、いままで7曲のテーマソングを歌ってきて、印象に残っている歌はありますか?

Mitsuyo:『おもちぽん』のテーマソングは、演歌や歌謡曲のような雰囲気がある歌なんです。個人的な話ですが、わたしはジャズの影響を受けて音楽活動をしてきたので、『おもちぽん』のような歌は、今まで歌ってこなかった分野でした。最初は、歌うことに恥ずかしさがあって。
でも、歌ってみたら、恥ずかしさを越えて自然と歌えてしまったんです。レコーディングでは体が勝手に動き出しちゃって、盆踊りのように踊ってしまいました。
やっぱり、演歌や歌謡曲って、ジャパニーズソウルというか、日本人がもともと潜在的に持っている“ノリ”で、曲を聴けば自然とそれが出てきてしまうのだと思います。絵本の歌を歌うことで客観的になれるし、新しい自分を発掘できるのですごくうれしいです。

「おもちぽん」テーマソング
https://youtu.be/Hekf8l5Vp64

1冊の絵本から広がる、それぞれの世界の響き合いを楽しんでほしい

――絵本のテーマソングは、曲自体を販売する以外の用途なら自由に使っていいという「FREE使用OK」マークがついていますね。どのような使い方をしてほしいと思いますか?

みちる:今までの歌は、作家さんが個展会場のBGMとして流してくれたりしていますね。それから、オペラ歌手の方がコンサートで歌って、その後ろに絵本のスライドショーを流してくれたこともありました。

川口:書店の絵本コーナーで流してほしいなと思います。あと、幼稚園や保育園でライブをしたいですね。

Mitsuyo:はやくライブで子どもたちと一緒に歌いたいですね。歌を通してみると、絵本の良さをもう一度実感できるんです。子どもたちが喜んでくれるといいなと思いながら、いつも歌っています。

――最後に一言、お願いします。

みちる:絵本は、解釈がひとつではない自由なものです。だから絵本を読むと、読んだ人の頭のなかに絵本とはべつの世界が広がります。テーマソングも、絵本からできるべつの世界のひとつです。僕たちがつくるテーマソングを通して、1冊の本からいろいろな世界ができる自由さ、深さ、そしてそれぞれの世界の響き合いを楽しんでほしいと思います。

――今日はありがとうございました。

〈おまけの質問〉

Q.3人の「ここだけの話」をそれぞれ教えてください


それぞれ話しはじめる3人

みちる:ユニット名の「オタクノマド」は、「オルタナティブ」「クリエイティブ」「ノマド」の3つの言葉からできました。3人で話しているときに、窓っていいなぁと思いながら窓の外を見ていたら思いついたんです。そういえば、「窓」も名前に入っていますね。

川口:絵本を読むとすぐに音のイメージが浮かびますが、それが具体的にメロディーになるのは、なぜか自転車に乗っているときが多いです。立ち止まってボイスメモに鼻歌を録音して、また漕いで考えて、浮かんだら立ち止まって。目的地に着く頃にはワンコーラスできている、という感じです。

Mitsuyo:3人とも甘いものが好きなので、よくミーティングとかこつけてケーキを食べにいったりしています。お酒より、コーヒーとスイーツな3人です。

編集後記

絵本を読むと曲が浮かぶという天才肌の川口さん、生みの苦しみを味わいながら珈琲館の片隅で作詞しているみちるさん、テーマソングを歌うことで新しい自分を発掘できたという歌手のMitsuyoさん。3人の響き合いが楽しいインタビューのひとときでした。今まで制作されたテーマソングはすべてYouTubeで聴けるので、ぜひ聴いてみてください。個人的には『つまさきもじもじ』のテーマソングがいちばん好きです。

 ***

話を聞いた人:「オタクノマド」川口卓也さん・みちるさん・Mitsuyoさん

川口卓也(作曲)
滋賀県出身。12歳からドラムを始め、高校卒業後すぐに上京、ESPミュージカルアカデミーに入学。その後は実力を買われ、最年少にて劇団☆新感線メタルマクベスライブツアーに参加、数々のシンガーソングライターのライブ、レコーディングなどプロとしての活動の幅を広げる。現在はドラム以外にもパーカッション奏者として活動中。
HP:https://rakatak-kawaguchi.jimdofree.com/

みちる(作詞)
1964 年東京・吉祥寺生まれ。2012 年、東日本大震災後の「心の復興」を目的に福島で活動。「ここは花の島」(合唱曲=谷川賢作作曲、写真詩集)、「自分らしさを咲かせて」(トリ音/作曲・歌)をリリース。2014 年、みちるのペンネームで「心の傷を治す本・10 秒の詩」を出版。

Mitsuyo(歌)
うたうたい。京都出身。ジャズ好きの父、ポップス好きの母からなんとなく影響を受け、幼いころから歌うこととピアノを弾くことが好きだった。本づくりの仕事にたずさわりながら、さらなる表現の世界を追求している。チャップリンやムーミンの世界、細野晴臣さんの音楽、Woody Allenの映画が大好き。
HP:https://mitsuy0utautai.jimdofree.com/ 
Instagram:@mitsuyo_undeuxtrois

笠原名々子

みらいパブリッシング
2020年12月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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