意外と知らない? 本と色の関係についてデザイナーの則武さんに聞きました
『パソコンでデザインしたものは、そのまま印刷に反映される』
私も初めはそう思っていました。でも実は、印刷時には色の調整が必要なんです!
今回は、そんな意外と知らない本と色の関係について、書籍のデザインを多数手がけるデザイナーの則武弥(のりたけ わたる)さんにお話を聞きました。
パソコンでデザインした色が、そのまま印刷されるわけじゃない
――今まで紙のデザインはどのくらい手がけてきましたか?
30年くらいデザイナーをやってきてるから、数が膨大で数え切れないですね。最初は広告代理店の仕事をしていて、その後グラフィックデザイン事務所でポスターやパンフレット、雑誌の仕事をやりました。写真集が多いけど、ブックデザインは20数年やり続けているから、全部で何百冊かやってると思います。
――デジタル化が進む前はアナログでデザインしていたと思いますが、パソコンでするようになったのはいつからですか?
95年ですね。デザイン事務所から独立した年でもあったんだけど、アップルがパワーマックというPCシリーズを出して、その年にみんなマックを買った記憶があります。昔は印刷するときに、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック(CMYK)の4色それぞれのフィルムを重ね合わせた製版フィルムっていうのをつくって印刷しないといけなかったけど、今はパソコンでCMYKのデータをつくって刷版っていうアルミ製の板にそのまま焼き付ければ印刷できるんですよ。
――私もそうでしたが、印刷での色の調整を知らない人からすると、パソコンでデザインしたら、その色がそのまま印刷に反映されるものだと思っちゃいますよね。
そうそう。その調整を管理するのがデザイナーや編集者の責任です。
透明感のある色や蛍光を紙で表現するのは難しい
――今までで、思い通りに色が出なかったことはありましたか?
思い通りにいかなかったことだらけですよね。なので、色がちゃんと出るか心配なときは、実際に印刷所に行って確認するようにしています。印刷所にはオペレーターがいて、彼らと一緒に現場で「もっとこうしたい」って詰めていくと、もう一般の人には分からないレベルまで調整できます。でも今は印刷技術が上がってるから、CMYKそれぞれの色が微妙にズレる“版ズレ”とかもないし、そんなに大きなミスは起こらないけどね。
――むずかしくて、奥深いですね。
そもそも、紙の上に表現するっていうのは、条件が悪いんですよ。たとえば、スマートフォンで撮影したJPEG形式の空の写真をモニターで見ると、ものすごく綺麗に映りますよね。でも、それを紙に印刷すると、思ったより綺麗じゃない。透かせて見ればカラフルだけど。
モニターでは、レッド、グリーン、ブルー(RGB)の3色の光で色を見るけど、印刷は、紙という不透明な素材にCMYKで色を重ねていくから、透明感のある色や蛍光とかを表現するのが難しいんです。
印刷の良さが分かる人のために本をつくる
――せっかくお金と時間をかけて印刷するのに、元データより悪くなってしまうなんて、もう印刷しなくていいじゃん、と思ってしまう人もいそうですね。
でも、なにか情報を出力、プリントするっていうのは特別な理由があるからするわけで。本に残したいって人は減ってきたけど、それでも本をつくる人はいるんですよね。
写真家や絵本作家には、それぞれ自分が思い描くプリントの色、絵の表現があります。僕たちの仕事は、それが本という複製物になるとき、できるだけオリジナルのイメージに近づけること。
綺麗に印刷されていると、やっぱりそれを見ている人の時間が、濃密になるんですよ。今の時代に本を買う人は、そういう時間を楽しみたい人が多いと思います。だからこそ、普通は気づかないような細部にまでこだわって、印刷の良さが分かる人のために本をつくっていきたいです。
――印刷が、作り手の思いと読み手を結ぶ大事な架け橋になっているんですね。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。
***
話を聞いた人:則武弥(のりたけ わたる)さん
デザインディレクター。ペーパーバッグ代表。CI、VI、教科書のデザイン他、「典型プロジェクト」でのプロダクト開発、詩のデザインレーベル「oblaat」、「東京ピクニックラブ」で活動。グッドデザイン賞他受賞多数。ウェブサイト https://www.paperback.jp/
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