【聞きたい。】水野梓さん 『蝶の眠る場所』 死刑執行の「その後」、小説で
インタビュー
【聞きたい。】水野梓さん 『蝶の眠る場所』 死刑執行の「その後」、小説で
[文] 飯塚友子
テレビ報道の最前線に22年間、身を置く中で、抑えきれなくなったのが、事件関係者の“その後”を伝えたいという思い。「事件の直後は、報道機関が現場に殺到しますが、その後の報道は稀(まれ)。でもカメラが去った後、声なき声に耳を傾ける仕事がしたかった」
念願かない平成25年、「NNNドキュメント」のプロデューサーとして、冤罪(えんざい)の疑いのある飯塚事件を扱う。殺人事件の“加害者”への死刑執行後、その家族の「今」や、複雑な思いと向き合った。公正中立を掲げるマスメディアでは迫りきれない関係者の感情や、事件の知られざる側面は、小説でしか伝えられないと確信、執筆を始めた。
本作は、小学生の転落死亡事故を端緒に、冤罪が疑われる殺人事件との関わりが浮上する社会派ミステリー。事件を追うシングルマザーのテレビ局記者、榊美貴を軸に、同僚や捜査関係者、“加害者”とその家族ら、それぞれの立場から忘れられた事件が語られ、立体化していく。先の読めない展開でグイグイ引っ張りながら、真の贖罪(しょくざい)とは何かを問う。
「死刑の是非ではなく、究極の刑罰に至る過程、執行までが見えない怖さを感じてほしかった。人は人を赦(ゆる)せるかが、究極のテーマです」
ぐずる小学生の息子を振り切り、現場に直行するヒロインは、8歳の息子を育てる水野さんにも重なる。「22年の記者生活、すべてを注ぎ込んだ」そうだが、中国特派員時代は7回も当局に拘束され、小説より怖い経験も。現在はBS日テレ「深層NEWS」のキャスターとして、本名の「鈴木あづさ」で出演中。
筆名は、小説家の夢を育んでくれた祖母の旧姓から取った。パソコンには、学生時代から書きためた作品が蔵出しを待つ。「1分のニュースも丁寧に取材すると、社会のゆがみがみえる。書きたいテーマはいっぱいあるので、青臭く怒っていたい」。ちなみに最近の関心事は、ウイグル問題だそうだ。(ポプラ社・1980円)
飯塚友子
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【プロフィル】水野梓
みずの・あづさ 昭和49年、東京都出身。米オレゴン大、早稲田大卒業後、日本テレビに記者として入社。警視庁担当などを経て現在、経済部デスク兼「深層NEWS」キャスター。