伊坂幸太郎氏、復刊熱望! ミステリー界のレジェンド・連城三紀彦作品3ヵ月連続刊行

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

暗色コメディ

『暗色コメディ』

著者
連城三紀彦 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575524611
発売日
2021/04/15
価格
935円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

伊坂幸太郎が絶賛する、連城三紀彦の第一長篇が復刊された。四つの奇妙な謎の真相と、それをひとつのストーリーにまとめた離れ業を堪能してほしい。

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 伊坂幸太郎さんに最も影響を与えた作家が、島田荘司氏と連城三紀彦氏であることはよく知られている。

 伊坂さんの『ラッシュライフ』が『暗色コメディ』のようなものを書きたい、ということから生まれた小説であるというエピソードを聞いた伊坂さんの担当編集者が、連城作品の面白さをもっと多くの読者に届けたいと強く願い、双葉文庫で「連城三紀彦作品、3ヵ月連続刊行企画」が生まれた。その第1弾となる『暗色コメディ』の読みどころを、書評家の細谷正充さんが解説する。

 ***

 連城三紀彦の第一長篇『暗色コメディ』が、双葉文庫で復刊された。しかも帯に推薦文を寄せているのが伊坂幸太郎だ。だが不思議ではない。「この小説に挑戦するつもりで『ラッシュライフ』という小説を書いたことがありました」というくらい、強い影響を受けているのだから。では、そこまで伊坂を魅了した『暗色コメディ』とは、いかなる物語なのだろうか。

 内容に触れる前に、本書の成立過程を述べておこう。探偵小説専門誌「幻影城」が主催する、第三回幻影城新人賞を、短篇「変調二人羽織」で受賞した作者は、同誌に短篇を発表しながら、幻影城ノベルスの一冊として、1979年6月に本書を上梓した。しかし出版と同時に版元が倒産。その後、一部のトリックを含めて改稿された。現在流布しているのは、この改稿バージョンだ。

 という情報を記してみたが、本書を楽しむためには必要ない。読み始めれば、すぐに物語の世界に引き込まれるだろう。なにしろ、冒頭で提示される四つの謎が強烈だ。人妻の古谷羊子は出かけたデパートで、夫が自分と同姓同名の女性と逢引きしているのを目撃。画家の碧川宏は、自殺するつもりでトラックに飛び込むが、なぜかそのトラックが消失した。葬儀屋の鞍田惣吉は、妻から「あんたはこの前の晩、死んだのよ。新宿の交差点で乗用車にひかれて」といわれ死者扱いされる。外科医の高橋充弘は、自分の妻が別人になっていると確信する。

 次々と描かれる四つの謎だけで、ページを繰る手が止まらない。さらに精神科の病院では都内でも一、二を争う藤堂病院が、物語の重要な舞台として登場。幾人かの登場人物の動向が判明するのだが、さらに奇妙な謎と事件が増殖していき、物語の行方がさっぱり分からない。作者の手練手管によって、迷宮を夢中になって歩いていると、やがて驚くべき真相が明らかになるのだ。

 未読の人のために、驚愕の真相に触れるわけにはいかない。幻想的な謎が、すべて合理的に解かれるとだけいっておこう。しかも全体の構成が精緻極まりない。ミステリーを読む楽しみが堪能できるのだ。その一方で、人の心の不可思議さに、複雑な思いを抱いてしまう。これもまた作品の、大きな魅力になっているのである。
 
 なお本書を皮切りに、何冊かの連城ミステリーが双葉文庫から復刊されるとのこと。希代の作家の優れた作品を、あらためて発見してもらいたい。

▼伊坂幸太郎推薦帯・連城三紀彦〈新装版〉双葉文庫公式サイト
https://www.futabasha.co.jp/introduction/2021/renjou_re/index.html

小説推理
2021年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク